春の代名詞ともいえる桜の花を真夏に咲かせることに挑戦している、川崎市宮前区馬絹の生け花作家、名古屋徹さん(56)が今夏、初の出荷にこぎ着けた。試行錯誤を重ねる名古屋さん。「昨年咲かせた方法を改良し、花の質が上がり、市場から評価された」と喜ぶ。2020年夏に開催される東京五輪・パラリンピックで、薄いピンク色の桜の花を使って「日本らしいおもてなしをしたい」。そんな夢の実現にまた一歩近づいた。
名古屋さんが住む馬絹地区は、江戸時代から花卉(かき)栽培が盛ん。特に「室(むろ)」と呼ばれる地下室で、ハナモモの枝を温めて開花を早め、ひな祭りに合わせて出荷することで有名だ。
名古屋さんはこの手法を応用。逆に保冷庫を使って低温で開花を遅らせる方法で、真夏に桜を咲かせることに成功した。しかし、市場関係者からは「花が白く花弁が細い」などと、品質面で評価を得られず、これまで出荷には至っていなかった。
そこで低温管理をより厳密にできる大型の「開花調整機」を特注。これまでよりつぼみが硬い時期に枝を入れ、花芽を夏まで“熟睡”させた。早咲きのトウカイザクラを使い、開花させたい時に調整機から出して目覚めさせ、花弁の形や色も、これまでよりずっと上質となり、花持ちも良くなった。
8月には東京五輪のセーリング会場近くの新江ノ島水族館(藤沢市)で、県などの協力による実証実験として展示し、好評を得た。市場関係者や生花店の反応も上々という。
名古屋さんは「東京五輪では、桜の咲く中で表彰式を行ったり、メダリストへのブーケに桜を採用したりしてもらえれば、日本らしいおもてなしにつながる。この方法なら、季節を問わず桜の花を咲かせることもでき、五輪後もさまざまな場面で活用できると思う」と意気込む。
調整機の中では現在、桜のほか、ハナモモや梅などの枝も開花に向け、つぼみが大きく膨らんでいる。