県立青少年センター(横浜市西区)にある「演劇資料室」のスタッフを務め、舞台芸術の研究に情熱を注いだ荒井賢一さんが1月、80歳で急逝した。横浜演劇研究所の一員として、35年前に国内外の戯曲をまとめた目録を出版。内容を充実させた改訂版の刊行を目指す中で病に倒れた。新型コロナウイルスの影響で表現活動が「不要不急」と見なされつつある今、「荒井さんが支えた演劇文化を守ろう」と芝居仲間が思いを新たにしている。
世界の戯曲、劇団の公演台本、演劇史…。資料室は、著名な劇作家の名作から高校演劇の脚本まで、多種多様な作品と出合うことができる。運営の中心は県演劇連盟。荒井さんはおよそ15年間、ボランティアスタッフとして常駐した。
「奥の席に座って黙々と資料を読み込んだり、苦手なパソコンを懸命に操作したり。生涯を研究にささげた人でした」。同連盟理事長の横田和弘さん(68)が、在りし日の荒井さんをしのぶ。
演劇を日常生活に根付かせたい。生前の荒井さんはこの信念を胸に、特にアマチュア演劇の大切さを説いた。「舞台になじみがなくても、わが子や知り合いが出るからと劇場に足を運ぶ。すると生の面白さに魅了され、だんだんと演劇文化が広がっていく。アマチュアは、演劇への一歩を踏み出させる『入り口』のような存在なんです」。荒井さんの思いを代弁するように、横田さんが言う。
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2005年7月、青少年センターの改修に伴い開設した資料室には現在、演劇図書約8千、雑誌約1万点が収蔵されている。戦後から現代までに上演されたプロ・アマ演劇のちらしやポスターも所蔵。半世紀以上にわたり演劇資料の収集を続けた横浜演劇研究所から寄託されたものが中心だ。その規模は国立国会図書館(東京)などと並ぶが、自由な閲覧がかなう上に貸し出しもしているのが資料室の特徴だという。