ゲイ公表した米政治家の生涯を描く
性の多様性を知るために 絵本「レインボーフラッグ誕生物語」
社会 | 神奈川新聞 | 2018年8月21日(火) 20:33
性的少数者の誇りを示すレインボーフラッグの歴史を伝える翻訳絵本「レインボーフラッグ誕生物語」(汐文社、1728円)が、このほど出版された。40年前にゲイであることを公表して政治家となり、後に暗殺された米国人ハーヴェイ・ミルク(1930~78年)の生涯を描いている。それは、平等の権利を求めた人々の闘いの軌跡でもあった。
原本の作者は米国の小学校教師ロブ・サンダースさん。日本語版の翻訳は宝塚大学看護学部(大阪市)の日高庸晴教授が手掛けた。日高教授は「レインボーフラッグの存在を知らない人は多い。この絵本を通じ連帯の力を感じてほしい」と話す。
赤、黄、紫…。ページを開くと、性の多様性を想起させる無数の色が目の前に広がる。
「ゲイの自分も友達も、そうでない人と同じように扱われること」を願ったミルクの夢、「みんなの希望になるシンボルが必要」との信念から生まれた虹色の旗。世にはびこる不平等を正そうと仲間と共に奮闘するミルクの姿が、分かりやすく、鮮やかなタッチで映し出される。
その一方で、ミルクが演説をする場面では「ゲイは出て行け」「神はゲイを認めない」といった同性愛者の排除を示すプラカードも目に入り、当事者を取り巻く環境が困難だった当時のありさまが表れている。
高校教師や演劇の制作者としての横顔もあったミルクが米サンフランシスコ市政執行委員に選出されたのは77年。米国史上初の、ゲイを公言して選挙で公職に就いた人物だった。当事者が「前向きになれるシンボルが必要」とのミルクの考えから生まれたレインボーフラッグは、晩年までゲイの人権活動家として活躍したアーティスト、ギルバート・ベイカー(51~2017年)がデザイン。旗は1978年6月25日、サンフランシスコで開かれたゲイの権利を求めるパレードで初めて使用された。
歴史的なパレードから5カ月後、ミルクは当時のサンフランシスコ市長とともに暗殺された。しかし、ミルクの夢とレインボーフラッグの精神は、今もなお世界中で生き続けていると本書はうたう。
日本国内に目を向けても、当事者にとって生きづらい社会が現存する。日高教授が2年前に1万5千人の性的少数者を対象に実施した調査では、約6割が小中高時代にいじめ被害を経験、7割が職場や学校で性的少数者について差別的な言動があることを見聞きしている、との実態が明らかになった。
「ミルクだけでなく、さまざまな人が世の中をよりよく変えていくために諦めず立ち向かった、その姿を知ってほしい」と日高教授は言う。性の多様性を学ぶ初めの一歩として、当事者をはじめとする多くの子どもたちに本書を手に取ってほしいと願っている。
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本書の問い合わせは汐文社電話03(6862)5200。