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核と平和 2012
今を見つめて(4)声を上げ続ける責任 17年の朗読

社会 | 神奈川新聞 | 2018年7月27日(金) 18:39

 静寂の中へ、魂を込めた言葉を放つ。穏やかな抑揚と間。聴く者の心に入り込み、訴え掛け、問い掛ける。人とは、命とは。

 「もう限界、ことしでやめよう。毎回そう思う」

佐伯敏子さんの手記「十三人の死をみつめて」を朗読する宇津純子さん=5日、茅ケ崎市のギャラリー
佐伯敏子さんの手記「十三人の死をみつめて」を朗読する宇津純子さん=5日、茅ケ崎市のギャラリー

 長崎、広島、チェルノブイリ―。核について書かれた手記や詩を朗読し、17年になる。「ヒロシマを語る会」の代表、宇津純子さん(63)=鎌倉市=は毎年、数カ月前から題材を幾度も読み込んで公演に備える。

 字面を追うだけでは伝わらない。行間を捉え、情景を思い浮かべ、作者の思いに気持ちを重ね合わせる。「感情が覚醒(かくせい)してしまってしばらく眠れなくなる夜もある」。作品とともに心が泣く。胸が締め付けられるようなつらい作業を丹念に繰り返す。

 ことしの題材は、広島で被爆した佐伯敏子さん(92)の手記「十三人の死をみつめて」。知人の紹介で出合った作品だった。

「とにかく伝えて」

 原爆投下直後から70日余りの間に、親兄弟、親族ら13人が次々と命を失っていく。血を吐き、痛みにもだえ、苦しみながら息絶えていく様が克明につづられる。

 「これは私には読めない。そう何度も投げ出した」。初めてのことだった。それでも、やめられなかった。「佐伯さんの手記が、私を呼ぶんです」

 宇津さんは6月末、手記に込められた思いを聞こうと、広島へ向かった。

 山あいに建つ施設に佐伯さんはいた。「もう目はあまり見えないようでしたが、しっかりした口調で、当時の様子を話してくれました。私の手を握り『とにかく伝えてほしい』と、そうおっしゃっていました」。思いは、使命感へと変わっていった。

大人から子への責任

 核の恐ろしさについて伝え続けてきた宇津さんにとって、ことしの朗読会は特別だった。

 昨年の東京電力福島第1原発の事故で、放射性物質が広範囲に拡散。神奈川に住む幼い子どもの尿からさえ、放射性物質が検出されている。「唯一の被爆国に住む私たちの多くが、再び被ばくした。まだ何の処理も済まないうちに政府は終息宣言し、大飯原発を再稼働させた。国はまったく国民の方を見ていない」

 自身と同じく、多くの国民が憤っている。だが今後、切なさや絶望感、無力感から、いつか声を上げることをやめるかもしれない。

 「めげたら負け。首相官邸前のデモにあれだけ人が集まっても、また別の原発が再稼働されるかもしれない。それでも声を上げ続けなければ駄目。過去も含め、子どもたちに伝え続けることこそが、大人の責任だと思う」

 5日、JR茅ケ崎駅前のギャラリーで開かれた朗読会に、女子中学生の姿があった。「若い人は珍しいのよ。しっかりと感想も書いてくれて」。うれしさがこみ上げた。

 スポットライトを浴び、際立つ鋭い視線の奥に、次代へ託す思いがあった。

(2012.8.9、田崎 基)

 
 

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