オウム真理教の松本智津夫死刑囚(63)ら7人の刑が6日、執行された。オウム犯罪の原点とされる坂本堤弁護士一家殺害事件から29年。坂本堤弁護士を知る県内外の弁護士らは、死刑執行の報に、一様に複雑な表情を浮かべた。「死刑制度がある以上は仕方ない」「一つの区切りにはなった」との声がある一方、事件について何も語らぬまま命を絶つことになった松本智津夫死刑囚を巡り、「事件の核心部分は闇に閉ざされたままとなった」などの指摘も出た。
坂本弁護士がかつて所属した横浜法律事務所は6日午後に会見を開いた。同事務所は一貫して、松本死刑囚に事件の真相を語るよう求め続けてきただけに、このタイミングでの死刑執行を「残念に思う」とした。
坂本弁護士の3期先輩に当たる小島周一弁護士(62)は「ついにこの時が来たか」と吐露。「事件がなぜ起き、若者がなぜ巻き込まれたのか、それは教祖である松本死刑囚の真摯(しんし)な言葉がないと分からない。執行よりも、それを語れということを最後まで追求してほしかった」と強調した。
「一つの区切りになったことは間違いないが、その区切りが死刑執行で良かったのかどうかね…」。同事務所の先輩だった岡田尚弁護士(73)は複雑な思いを明らかにした。
「坂本弁護士と家族を救う全国弁護士の会」事務局長の影山秀人弁護士(60)は、オウムが凶悪な犯罪集団に変貌した分析が不十分とした上で、「その材料を松本死刑囚から引き出したかったが、機会が永久に失われた」と悔やむ。懸念するのは、今回の執行で全てを幕引きにしてしまう風潮だ。「いろいろな歴史を経験してきた人間はそのたびに反省を重ね、社会に防御装置が生まれてきた」とし、「私たちが考えねばならないことが、この事件にはまだ残されているのでは」と語った。
坂本弁護士とオウム問題に取り組んだ小野毅弁護士(59)は「松本死刑囚とともに6人の死刑が執行されたことが非常にショックだ」と述べた。小野弁護士は松本死刑囚以外の執行については反対の立場を貫き、まだなされていない事件の総括に協力させるべきだと主張してきた。「教団が何だったのかを考える上で極めて重要な人物たちが失われた。松本死刑囚はさらに6人を道連れにしていったとも言える」と憤慨。残された6人の死刑囚については「厳に執行を慎んでほしい」とした。
オウム真理教犯罪被害者支援機構の副理事長で、坂本弁護士と同期の中村裕二弁護士は、1日に7人の死刑が執行されたことに驚く。「死刑廃止に向かう国際情勢の中で、大きな批判を浴びるかもしれない」と憂えを表明した。