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【減災新聞】大川小判決を礎に防災対応を 研究会に遺族や弁護士参加 

社会 | 神奈川新聞 | 2018年6月11日(月) 11:00

大川小訴訟控訴審判決の意義や今後について意見が交わされた研究会=5月25日、専修大神田キャンパス
大川小訴訟控訴審判決の意義や今後について意見が交わされた研究会=5月25日、専修大神田キャンパス

 東日本大震災で児童、教職員計84人が犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校を巡る津波訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は4月、学校側の事前防災の過失を認定した。震災時の対応が争われた同種の訴訟で今回のような踏み込んだ判断が示されたケースはなく、「画期的な判決」との評価がある一方、「教育現場が高度な防災対応を求められることになり、負担が大きい」との懸念も。判決から約1カ月後の5月25日、遺族も参加した研究会が都内で開かれ、率直な受け止めが語られた。

 一審仙台地裁判決は、地震発生後の教職員による避難誘導の過失認定にとどまった。これに対し控訴審では、石巻市教育委員会や大川小の校長、教頭らが事前に児童の命や身体の安全を守る義務(安全確保義務)を負っていたかどうかとその内容、結果との関わりが主な争点となった。

 判決では、学校保健安全法=自助のヒント参照=に基づいて大川小が定める危機管理マニュアルに、同小の実情に即して安全な避難場所や経路、避難方法などを規定しておく義務があったと認定。市教委については、大川小に対してマニュアルの作成を指導し、その内容を確認、是正する義務を負っていたと言及しており、事前防災の「組織的過失」を認めた。

 そうした判断の背景について、遺族側の斎藤雅弘弁護士はこう読む。「(学校教育法に基づいて公立小に通っている)子どもが学び生活する場として、命を守らなければいけないということを、高裁は事実認定の土台に置いたのではないか」

 津波の予見可能性についても、学校現場には重い判断が投げ掛けられた。

 判決では、市教委が危機管理マニュアルの作成・改定期限として市内各小中学校に通知していた震災1年前の2010年4月末の時点で「予見することは十分に可能」と指摘。県の地震被害想定調査や市の津波ハザードマップで、発生が警戒されていた宮城県沖地震による津波のリスクが示され、その浸水予測区域に大川小が含まれてはいなかったものの、想定には誤差がある上、近くを流れる北上川の堤防が被害を受けて浸水する危険性があることも踏まえた詳細な検討が必要だったとした。

 教職員は避難誘導時に児童や生徒の行動を拘束することになるため、津波ハザードマップの信頼性について独自の立場から検討することが求められるとしたほか、校長らには地域住民より高いレベルの知識や経験が欠かせないと踏み込んでいる。

 こうした役割に基づいた事前防災の積み上げによって安全確保義務が果たされていれば、多数の児童が犠牲になるという結果を回避できたとも判示している。

 斎藤弁護士は「ハザードマップの限界を正面から認めた判決で、教師個人に過大な知見や判断を求めるのは厳しいとの声もあるが、内容をよく読めば、決して現場に責任を押し付けてはいないことが分かる」と分析。「県や防災担当などしかるべき部署が協働し、知見を総合すべきだとしている。ここが出発点ではないのか」と問い掛けた。

 専修大の飯考行教授(法社会学)は「東日本大震災の津波犠牲者遺族が提起した訴訟は、学校、企業、施設関係など少なくとも16件あるが、なかなか勝訴に至っていない。大川小の訴訟は原告の請求がおおむね認められ、1審、2審で判決理由が異なる非常にまれなケース」とした上で、高裁の判断について「学校保健安全法に力点を置き、小学校教育も重要視している」と評価する。

 遺族側の吉岡和弘弁護士はこう訴える。「高裁判決を全国の教員に熟読してもらいたい。これが学校防災の一番の研修、絶好のテキストになるのではないか」

 研究会は、大川小の教訓を学び、学校防災のあり方などを探る「大川小学校研究会」が主催した。

自助のヒント 学校保健安全法


 2001年6月の大阪教育大付属池田小学校の事件を受け、従来の学校保健法が改正される形で成立、09年4月に施行された。学校設置者の責務を規定した26条で、事故や加害行為、災害などで児童生徒に生じる危険を防ぎ、危険や危害などが発生した時は適切に対処できるよう必要な措置を求めている。27条、29条では、学校安全計画や危機管理マニュアルの作成を全ての学校に義務付けている。児童らの安全確保に際し、関係機関や地域の団体、住民らと連携を図るよう求める努力規定もある。


遺族としての思いを述べる只野英昭さん=25日、専修大神田キャンパス
遺族としての思いを述べる只野英昭さん=25日、専修大神田キャンパス

「未来のため語り継ぐ」 長女犠牲の只野さん


 「判決は学校防災の礎だ。東日本大震災から7年が過ぎたが、現場には教育関係者も多く訪れる。自分だったらどう行動するのかを確かめにきているようだ。それが本来の教育者の姿なのではないか」

 大川小学校の研究会では、長女未捺さん=当時(9)=を亡くした原告の1人、只野英昭さん(47)も胸の内を明かした。語り部活動も重ね、悲劇の教訓を伝え続けている。

 「三陸沿岸は何度も津波に遭い、そのたびに人的被害も出ているが、美談ばかりが語り継がれ、つらい話に向き合ってこなかった。それが被害の繰り返される最大の原因だと、語り部のつどいで話す人がいた」

 だから、自らの役割を見定める。「大川小の悲劇をしっかり語り継ぐことが未来の防災・減災につながると思う。現場に来た人に同じような遺族になってほしくない。当事者になってから気付くのでは遅い」

 南海トラフ地震などの発生が懸念され、「いつまでも裁判で争っている場合ではない」とも感じている。「いろんな人が自分ごとに考える場所として後世に語り継ぎ、防災の意識を日本全国、世界各国に発信していかなければ」と思いを込めた。

 
 

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