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ヘイトスピーチ考
時代の正体〈601〉ヘイト集会問題(上)信頼裏切る市の姿勢

社会 | 神奈川新聞 | 2018年5月22日(火) 09:35

記者会見するかわさき市民ネットワークのメンバー=16日、川崎市役所
記者会見するかわさき市民ネットワークのメンバー=16日、川崎市役所

【時代の正体取材班=石橋 学】「いまこそ川崎の行政力、川崎が目指してきた人権というものの内実が試されている。ヘイトスピーチという犯罪をみすみす認めるのか、行政の良心が試されている」

 社会福祉法人青丘社の理事長でもある在日コリアン2世、裵重度(ぺ・ジュンド)さんはそう切り出した。

 人種差別の扇動を繰り返し、川崎市のヘイトスピーチ対策の阻止を公言する極右活動家、瀬戸弘幸氏が6月3日に市教育文化会館(川崎区)で講演会を計画している問題で16日、市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」が開いた記者会見。公的施設におけるヘイトスピーチを未然防止するガイドラインは3月に施行されている。だが、計画が瀬戸氏のブログで告知されてから2週間余り、市に問い合わせても「情報の収集中」と繰り返すばかりで、会館使用不許可の判断は示されない。判断の妥当性を審議する第三者機関の招集もかかっていない。

 この間、告知しただけであおられた「川崎の朝鮮民族は侵略者」「日本からいなくなればいい」といった差別書き込みがインターネット上で続き、人権侵害は拡大していた。もどかしさを通り越し、批判の声が市に寄せられる中、会見で強調されたのはしかし、「信頼」だった。

「先進自治体」


 青丘社は在日コリアン集住地区の川崎区桜本で差別のない共生のまちづくりに1970年代から取り組んできた。

 「外国人と共に生きる社会をつくる歩みを数十年にわたって川崎市とともに進められてきた。私たちは市に一定の尊敬を持ち、信頼もしている」

 市営住宅入居や児童手当の国籍条項撤廃、民族差別の解消を目的にした公的施設「市ふれあい館」の開設、一般職の市職員採用試験における国籍条項の撤廃、地方参政権のない外国籍市民の声を市政に反映させる外国人市民代表者会議の設置-。

 「市長の英断によりヘイトデモが食い止められた実績もある」

 その福田紀彦市長の「英断」は、市が全国に先駆けて積み上げてきた外国人施策の延長線上にあったはずだった。2016年5月、市内でヘイトデモを繰り返してきた人種差別主義者に対して福田市長は公園使用を不許可にした。

 「市民の安全と尊厳を守るため」

 在日コリアンへの差別をあおり、殺害まで呼び掛けるヘイトスピーチは重大な人権侵害であり、市が掲げる多文化共生を否定し、平穏な地域社会を破壊する。人権擁護と安全・安心なまちづくりは自治体の何よりの責務であり、桜本の街を標的に三たび行われようとしているヘイトデモを食い止めることは法律の理念にかなうものだった。

 福田市長の全国初の判断を後押ししたのが直前に成立したヘイトスピーチ解消法だった。野放しだった差別的言動を「許されない」とうたい、その解消に向けた施策を求める解消法こそは、桜本から上がった抗(あらが)いの声が国会へ届き、その訴えが立法事実となって成立・施行を見たものだった。

「オール川崎」


 市長の判断に当たっては市議会も「断固たる措置」を求める要望書で支えた。横浜地裁川崎支部も桜本におけるヘイトデモ禁止の仮処分決定を下し、不許可判断にお墨付きを与えた。

 デモ主催者は場所を中原区に移してヘイトデモを強行するも、今度は市民が盾となった。体を張った抗議に行く手を阻まれたヘイトデモは中止に追い込まれた。

 「行政、司法、市民、議会がオール川崎でヘイトスピーチを許さないという姿勢を示せたことは良かった」「議会の総意による要望は市民の総意と受け止められた。決断する上で勇気をもらった」

 翌日の会見でそう語ったのは福田市長自身であった。

 これからは「英断」を下すまでもなく、なおかつ正当な表現行為の規制を避けながら、制度的にヘイトスピーチという人権侵害を未然に防ぐ。市の付属機関である市人権施策推進協議会の提言を受けて制定されたガイドラインもまた、市長の判断が出発点だった。

 「ガイドラインも市長の思いの中から作られてきたものだと思う。私たちも行政を支えるから、市に頑張ってほしいと意思表示をさせてもらった」

 そうして開いた記者会見。ガイドライン施行に当たり、その目的がヘイトスピーチの未然防止、根絶にあると明記し、市議会が全会一致で可決した「ヘイトスピーチの根絶に関する決議」を挙げ、裵さんは念押しするように続けた。

 「安易に腰砕けになるとヘイト団体はこれを前例にして、集会やデモを次々と計画してくることになりかねない。以前のように市長が決断すべき時だ。市議会も支持するすう勢にある。行政がどこまで性根を据えて一歩を踏み出すか。行政の良心でどう食い止めるか。市に頑張ってほしいという思いが強くある」

 そのわずか10分後。切実さの裏返しでもあった信頼とエールはしかし、裏切られた。

 「現時点では不許可にする要件は満たしていない」

 「現時点」の留保付きであっても、福田市長が定例会見で示した市の見解と姿勢は差別主義者たちを勢いづけ、人権侵害を拡大させる結果を招いている。

「被害を受け止めて」


 国会での意見陳述がヘイトスピーチ解消法成立の後押しとなった在日3世の崔江以子(チェカンイヂャ)さんが会見で訴えたのも「信頼」と、制度があっても守られないという結果を迎えた場合にもたらされる果てしない絶望だった。


 ヘイトスピーチは終わっていない。人権被害は続いている。講演会の計画がブログに掲載されて2週間以上、コメント欄に連なる書き込みの数々に触れ、絶望的な気持ちで日々過ごしている。

 一方で、市が設けたガイドラインによって私たちは守られるはずだと期待しながらの日々でもあった。これまでそうだったように、市民と議会、行政の「オール川崎」でヘイト根絶に向かって歩んでいくと希望を持って信じてきた。

 残念ながら、市はガイドラインの運用に慎重で、対応は不十分。そうであるなら、市民が先行して声を上げるしかない。

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