2日に92歳で亡くなった絵本作家で児童文化研究家のかこさとしさんを追悼する企画が、かこさんが1970年に移り住んだ藤沢市内で催されている。「だるまちゃん、大好き」「今は孫が楽しんでいます」。会場を訪れる人からは、世代を超えて感謝の声が次々と上がっている。
かこさんの死去から1週間ほどたった10日。市総合市民図書館の地下1階にある「おはなしのへや」には、子どもたちの笑い声が響いていた。
4歳以上を対象にしている週1回開催の「おはなし会」。集まった30人ほどの親子を前に、読み手がある一冊を手にすると、ひときわ大きな声が上がる。
「読んだことあるよ」「その本、持ってる」
67年発刊の「だるまちゃんとてんぐちゃん」。かこさんの代表作は今も人気だ。小学生と幼稚園児の娘2人と参加した福田和美さん(43)は「子どもがだるまちゃんを大好きで、繰り返し読んでいます」とほほ笑んだ。
読み聞かせなどで作品を多く紹介してきた同図書館は現在、関連資料などの展示と併せ、市民からメッセージを募集するコーナーも設けている。
「だるまちゃんの楽しいぼうけんの数々をありがとう!!」「子どもが大好きで何度も何度も読んで、楽しませていただきました」。中には「ようちえんでよんだよ」という子どもが記した言葉も並ぶ。
3人の子を連れ、コーナーに立ち寄った主婦(36)はこう話す。「かこさんの絵本ははやりの色やキャラクターは何も出てこないけれど、子どもの心をつかむ。きっと、とことん子どもの視点に立って描かれているからなのだと思う」
工学博士として民間企業の研究所に勤務した時代、かこさんは毎週末、川崎市内の貧困地区で生活向上や自立を支援する「セツルメント活動」に参加。子どもたちから鬼遊びや石蹴り、絵かき遊びなどを教わったという。
19歳で敗戦を迎えたかこさんには「軍国少年だった自分のように愚かで間違った判断をしないように」との思いがあった。生前は「子どもさんたちには、自分のちゃんとした考えを貫ける賢い子になってほしい」と語っていた。
藤沢市役所本庁舎1階の追悼展示では、かこさんの代表作や絵本の複製原画、ことし3月に発刊した最新の著書など、生涯にわたって描き続けた作品の数々を見ることができる。
藤沢市立小学校や特別支援学校で教諭を務めた小柳倫子さん(71)は言う。
「かこさんの作品では、登場人物がそれぞれに輝いている。『みんな、それぞれ違っていいのだよ』と言ってくれているよう。絵本の中にあるように、誰もが大切にされる文化をこれからも大事にしていきたい」
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市役所本庁舎での追悼展示は20日まで、各市民図書館での作品展示は今月末まで行われている。