地域への関わり方を変えようとしている障害者グループがある。社会福祉法人「訪問の家」が運営する横浜市栄区の通所施設「朋(とも)第2」の利用者でつくるCAN(キャン)グループだ。アルミ缶のリサイクル活動で戸別回収する際に、2年前から防犯パトロールも兼ねて高齢世帯が増える街に目を配っている。そこからは支えられるだけでなく、相互に支え合う「共助」という新たな関係性が見えてくる。
朝から気温がぐんぐんと上がり、夏日を記録した4月26日。この日は、同区桂台中の市桂台地域ケアプラザが発着点の週3日あるCANの活動日にあたった。
「アルミ缶の回収にご協力ください」と書かれたのぼりを掲げ、朋第2のスタッフを含めた10人余りが時折木陰で骨休めしながら、ゆっくりとした歩みで住宅街を巡っていく。
「アルミ缶回収中」などと記されたベストに袖を通したメンバーを見やり、朋第2の女性スタッフが「こうして身に着けることでやる気が出るんですよ」とほほ笑む。確かにメンバーの表情はどこか誇らしげだ。
「おはよう、きょうは暑いわねえ」「日差しが強いから気を付けて」。通行人や近所の人から自然と声が掛かる。そんな様子が、この活動の息の長さと地域への溶け込み具合を雄弁に語る。
朋第2の近所を巡る週1回のコースを含め、回るのは週4回計120軒程度。玄関先に出されたアルミ缶を回収するだけでなく、ときに顔を合わせて手渡しで缶を受け取る。
重い障害があるメンバーは言葉によるコミュニケーションが難しいが、地域の人たちは名前で呼び「きょうは元気そうだね」などと話し掛けてくる。
金銭的な目的ではなく、あくまで地域との結び付きを強めようと、CANの面々がリサイクル活動を通じて街に飛び出したのは、およそ20年前。その歳月は地域との距離を縮めるとともに、障害者をひとくくりにせず個人として認識するという、住民の意識も育んできた。
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一方、活動を続けている側には、もう一歩踏み出そうという気持ちが芽生え始めていた。
「最初は社会とのつながりをつくっていこうというところに重きを置いた取り組みだったが、われわれが主体性を持って何ができるのか、互いに支え合うにはどうすればいいのか、という思いが出てきた」
そう語るのは、朋第2施設長の山本佳一さんだ。アルミ缶の回収と防犯パトロールを兼務するようになったきっかけは、地域との関係を深めてきたからこそ見つかったという。
同ケアプラザと自治会関係者らとの会合で、こんなひと言が出た。「回収のときのゆっくりした歩みは、防犯パトロールにも役立つんじゃないか」。同区の高齢化率は約3割で、市内18区のうち最も高い。実際に住宅街を回るメンバーたちも高齢の単身世帯などが増えていることなどを肌で感じてきた。
街の課題の改善に貢献できるかもしれない。地域の声にうなずき、防犯活動も兼ねた巡回は2016年春に始まった。「目に見える形で伝えていかないと地域の理解は得られない」という考えで、のぼり、ベスト、腕章も着けた。
今では市の消費生活推進員としても活動する。毎月1回、悪質な訪問販売に注意を呼び掛けるといった啓発チラシを各戸に配布する役割も担っている。
「多くの地域の人たちの中に、障害のある人が一人一人位置付けられていったし、一方で障害のある人が地域の人たちを支える側にもなれる。実践を通じ、われわれ職員はこうしたことを強く感じています」。山本さんは、アルミ缶のリサイクルが20年という時を経て地域の課題解決の一端を担うまで変化してきたことの意義をこう語る。
「重い障害がある人たちは支えられていかなければ暮らしていけない存在と思われがちですが、決してそうではない。お互いが支え合って暮らしていく、そういう社会を生み出す役割を担っているのではないかと思います」
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アルミ缶の回収と防犯パトロールを兼ねた活動も、そろそろ中盤に差しかかったころだった。
朋第2のスタッフから「クロちゃん」の声が上がり、メンバーの顔にも反応が広がっていく。散歩中だった近所の飼い猫「クロ」がメンバーたちの前に現れて、いったん止まると、さっそうときびすを返して駆けていった。
クロとはもう顔なじみ。一休み用にと軒下を貸してくれる家があれば、炎天下の暑い日は近所からアイスの差し入れだってある。活動とともに20年歩み続けているメンバーもいるし、この地域でCANは顔だ。
山本さんは、滋賀県に知的障害児施設を開設し「障害福祉の父」として知られる故糸賀一雄氏の言葉「この子らを世の光に」を引き合いにこう言った。
「『この子らが世の光になる』ということは、おそらくこういう(活動の広がりの)ことなのかな、と感じています」