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【減災新聞】防災対応妙案どこに 南海トラフ警戒情報

社会 | 神奈川新聞 | 2018年4月30日(月) 17:18

南海トラフ地震警戒情報の防災対応を検討する作業部会で、あいさつする主査の福和伸夫名古屋大教授 =12日、内閣府(共同)
南海トラフ地震警戒情報の防災対応を検討する作業部会で、あいさつする主査の福和伸夫名古屋大教授 =12日、内閣府(共同)

作業部会の検討、難航も


 マグニチュード(M)8~9の南海トラフ巨大地震の発生が予想された際に、気象庁が発表する臨時の警戒情報を被害軽減にどう結び付けるか。その具体策を練る政府・中央防災会議作業部会の検討がスタートした。この情報は、実現不可能と判断された東海地震の予知に代えて昨年11月から運用されているが、精度や発表のタイミングなどに課題や制約を伴う。大規模地震の発生後に連動地震への警戒を呼び掛けるケースがある一方で、すぐに大きな地震が発生せず、情報に基づいた避難などが長期化する事態もありうる。論点は多岐にわたっており、対策の取りまとめは難航しそうだ。

限度1週間


 「予測の確度が高くない情報では、基本的には業務を継続するという意見が多い一方で、津波到達時間が短い地区では安全確保や要配慮者への対応が必要との意見があった」

 12日に開かれた「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」(作業部会)の初会合。静岡市と静岡県沼津市での聞き取りの結果が報告された。いずれも被害予想地域の立場から、臨時情報に基づいた防災対応のありようを検討するモデル地区=自助のヒント=に選ばれている。

 聞き取り対象は、自主防災組織と医療機関、福祉施設、学校、観光関連施設。「医療機関や福祉施設からは、(臨時情報が出ても)基本的には業務を継続するとの回答が多かった。理由としては、地震の発生が確実ではないことのほか、利用者のサービス継続のニーズや津波到達までに高所への避難が可能であることが挙げられた」

 事務局を務める内閣府の担当者はこうも報告した。「仮に運営を休止するとしても、1日から1週間が限度との回答があった」。学校は授業、施設関係は収入面への影響を懸念しているという。

多様性求め


 静岡市は人口約70万人、沼津市は19万人余り。南海トラフ地震の被害想定によると、静岡市清水区には地震の2分後に高さ1メートルの津波が到達し、全国で最も時間的な猶予がない。沼津市にも4分で押し寄せると試算されている。

 両市とも、大きな被害が予想される代表的な都市としてモデル地区に選ばれたものの、静岡県の川勝平太知事は初会合で「静岡市と沼津市の論点がモデルになるのかどうか」と懸念を示した。

 東日本大震災を受けた津波対策の「徹底的な話し合い」(川勝知事)の結果、伊豆半島の市町は住民が防潮堤を求めなかった。対して浜松市では、高さ13メートルの防潮堤が整備されている現状があるなど、対策の考え方に地域差があるからだ。「ハード、ソフト対策は一律でない。(臨時情報に基づく防災対応も)地区に合った形で多様性があるべきだ」との考えを示した。

 高知県の尾崎正直知事は「強制力を伴ったスタートと解除。号砲が慣らされないと、自治体ごとに対応がばらばらになってしまう」と、国の主導がなければ混乱を招くとの見方を示しつつ、一律で対応する難しさを指摘した。「命を守るために最善の策を取るということと経済活動という相反するものをいかに両立させるか。(自治体の対応に)一定の多様性を認めてもらうことも必要だ」

 作業部会のこうした議論を受け、神奈川県内の防災担当者も「静岡や高知のような厳しい被害は予想されていない。両県などと同じような対応を求められても困る」と本音を明かす。

「支援の壁」


 臨時情報は、南海トラフでプレート(岩板)の固着状況に変化を示す異常な現象が観測された場合に「南海トラフ地震との関連性について調査を開始した」旨の第1報が現象の観測からおおむね30分後に発表される。その後、有識者による評価検討会が南海トラフ地震の恐れがあると判断すれば、「大規模地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まっている」といった第2報が最短で2時間後に出される。

 臨時情報の発表対象となる異常な現象は多様だ。(1)南海トラフ沿いのいずれかでM7以上の地震が起きた場合(2)M6以上か震度5弱以上の地震が発生し、地殻変動を捉える「ひずみ計」に特異な変化が観測された場合(3)「ひずみ計」の複数地点で変化が観測された場合-などが含まれている。

 評価検討会の会長でもある平田直・東大地震研究所教授は作業部会で、(3)に関し「東海地震の予知は行わないことになったが、従来の情報発表の基準も臨時情報に含まれている」と説明した。

 他の有識者からは「地震が起きた後ではなく、((3)のようなケースで)どこにも被害が出ていない状況で臨時情報が出た時の行動が一番難しい」との見方が示された。その一方、(1)のような大規模地震後に情報が出ると、「(被害を受けていない地域からの)自治体の支援やDMAT(災害派遣医療チーム)の派遣が行いにくくなるのでは」との指摘もあった。

自助のヒント 南海トラフのモデル地区


 南海トラフ地震に警戒する臨時情報の防災対応を話し合うモデル地区での検討は、今回の作業部会に先駆けて始まっている。静岡県のほかには、想定津波高が高い高知県の室戸市と黒潮町、さらに中部経済界で議論が行われている。室戸市の住民からは「家に耐震性がない」といった理由で臨時情報を基に避難するとの声が出る一方、「家の状況が心配」などと避難しない理由が挙げられた。中部経済界では、聞き取りを行った百貨店や工場の多くが「事業を継続しながら実施可能な防災対応を取る」との意見だった。

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