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障害者に「寄り添う」とは? 相模原殺傷事件受けセミナー

社会 | 神奈川新聞 | 2018年4月11日(水) 12:27

県立障害者施設「津久井やまゆり園」=相模原市緑区(資料写真)
県立障害者施設「津久井やまゆり園」=相模原市緑区(資料写真)

 福祉の現場で多く聞かれる「寄り添い」という言葉。相模原市緑区千木良の県立障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件を受け、セミナー「寄り添うとはどういうことなのか」(県社会福祉士会主催)が横浜で開かれた。現在の園での生活、利用者や職員の様子、障害者施設のありように関する議論への利用者家族の受け止め-。園職員や利用者家族、専門家がそれぞれの立場から語った。

 「事件により、私たちの暮らし全てが奪われた。絶望と混乱の中でも力の限り生きてくれている利用者の日々、家族の葛藤、職員の取り組みを伝えたい」。津久井やまゆり園の入倉かおる園長はそう切り出した。

 事件が起きた2016年7月26日未明、園に駆けつけると職員と警察、消防関係者が黙々と動き回っていた。「職員は悲しみや悔しさにふたをして黙々と目の前のことに取り組んだ」と振り返る。朝になり、被害を免れた利用者が男女別に体育館などに集まることになった。移動時、「(利用者に)『ねえ、おしっこ』と言われ、ほっとして涙が出た」と話した職員もいたという。現場検証などの都合で職員は事件現場を目にしながら仕事し、体調を崩す利用者もいた。「その場にいた人、皆が被害者だった」

 横浜市港南区芹が谷の施設へ仮移転が決まり、利用者の自治会で説明すると、「職員は(一緒に)行ってくれるか」「行きたくない、ここがいい」などの声が聞かれた。それを受け止め、理解してもらえるよう努めた。職員にも不安はあったが、「利用者の環境変化が少なくなれば」と、8割近い職員が移ったという。

 仮移転にあたり、改めて見えたのが地域との結び付きだった。千木良での短期利用者家族らへの説明会では、予想していた不安や不満ではなく、「早く戻ってきて」と声を掛けられた。この期待に応えるためにも「必ず戻ってこようと、沈み掛けていた職員の気持ちが奮い立った」。芹が谷での説明会でも励ましや歓迎の言葉を受け、驚きと喜びがあったという。

 17年10月に策定された県の津久井やまゆり園再生基本構想では千木良、芹が谷にそれぞれ施設を整備するとされた。今後は利用者への意思決定支援を通し、新しい暮らしの場を構築することになる。

 入倉さんは「事件当日は犠牲になった人や家族のそばにいた。そのことだけで精いっぱいだった」と振り返る。「芹が谷で暮らす人、不安いっぱいの家族、多くの職員にきめ細かく寄り添っていけるように心掛けていきたい。やまゆり園再生に向けて歩んでいく姿、その状況を伝える役目が私にはある」と結んだ。

◇ 妹が重傷を負ったという男性は、やまゆり園のある地域を「ホームタウン」にしていた妹の暮らしと、やまゆり園再生に向けた県審議会の専門部会での議論などについて思いを語った。

 男性も福祉の仕事に携わっている。園を「頼りになる社会資源で、その恩恵を妹が受けていた」と感じていた。事件後、当初は家族会などの要望も踏まえ、県は現在地での建て替えを決めた。それに一番安心したのは体調を崩しがちだった母だったという。

 その理由は「地域とのつながり」だ。妹は元職員宅に食事に呼ばれたり、散歩中にその家に上がり込み、パンを焼いたりしたことがある。「重度障害の子が遊びに行ける場所がある」地域だった。さらに園近くに住む顔見知りの人たちが、元職員だと知って驚いたこともあった。「そういう地域だから、密着というより一体化していると感じていた。だからこそ妹は楽しく暮らせた」と考える。

 それだけに、福祉関係者から建て替え反対の声が上がったことは複雑だった。男性は、施設の地域化には賛成だ。だが「人里離れた山奥にあり、地域とのつながりがない施設」のような固定観念で、園と地域が評価されることは「きょうだいとしても福祉職としても見過ごせなかった」。専門部会は途中から傍聴したが、「地域移行という『正しい意見』の中で、妹は遊びに行ける、受け入れてくれるホームタウンを奪われてしまうかもしれない。それは違うんじゃないか」と思った。「今ある生活の尊さ、職員の頑張り、そういうことに目を向けてくれないのだろうか」と考えながら傍聴した会議の雰囲気を耐えがたく感じたという。

 利用者の暮らす場所は、本人の意向を踏まえて決まることになった。それには感謝している。ただ、専門部会でのやりとりは「個別の安定や幸せのようなものが『大事の前の小事』のように扱われる雰囲気がつらかった」と振り返る。その経験は、福祉職としての自身を省みることにもつながったという。

 「大規模だから分散、という流れに歯止めをかけたかった。なぜなら、地域とつながっていたから」。妹には千木良の園で楽しく暮らしてほしいと願っている。

◇ 田園調布学園大教授の隅河内司さんは、相模原市では地域作業所とグループホームを核に障害福祉行政が進められた経緯を解説。その上で、「事件について多くの意見があるが、大切なのは問題を決めつけたり、矮小(わいしょう)化したりせずにとらえること」と指摘した。また、共生社会の3原理として「反貧困としての福祉」「反抑圧、反差別としての平等」「戦争を根絶する平和」を挙げ、「これを社会の共通のものとすることが共生社会の構成要件なのではないか」とした。

 事件を受けた国の対応については、措置入院制度や施設の防犯対策などに焦点が当てられたことに「残念な思いがある」。凶行に及んだ被告が優生思想による偏見を口にしたことから、「事件の根底にはその考え方があるといわれる。こうした社会の意識を改め、啓発する機会とすべきだったのではないが」と投げ掛けた。

 さらに、重度障害者の存在は経済の活性化を妨げるという被告の主張に触れ、「こうした考えは社会にも一般的に存在しているのではないか」と懸念。経済的価値で人間を評価することが、障害者への差別は「差別」ではなく、当然の「区別」だという考えや意識が生まれることにつながるとしたうえで、「私たちと被告が全く無関係だとは言い切れない。そういう環境に私たちは生きていると国民一人一人が自覚し、克服すべき問題だ」とした。

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