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抗う<1>優生学 学び、向き合う若者たち 相模原連続殺傷事件

社会 | 神奈川新聞 | 2018年4月6日(金) 13:04

講義で学生に語り掛ける田坂さつき教授、事件があった障害者施設「津久井やまゆり園」、ドイツにある「T4作戦」の展示を見る市民ら(右から)
講義で学生に語り掛ける田坂さつき教授、事件があった障害者施設「津久井やまゆり園」、ドイツにある「T4作戦」の展示を見る市民ら(右から)

 障害者を殺害し「意思疎通のできない人間を安楽死させるべき」と主張する男は特異だろうが、優生学的な思想が今も鼓動を打つからこそ現れたとも言えないか。相模原市緑区の障害者施設での凶行から1年半余り、人々の記憶が薄らぐ中、内なる優生思想と向き合おうとする意志も在(あ)る。これは、キャンパスでの学びを通じ、幼く、青臭くとも事件に抗(あらが)おうとする若者の記録だ。

 暑さがだいぶ和らいだ昨年9月28日の昼下がり、東京都品川区にある立正大学の品川キャンパス一室に、独裁者の咆哮(ほうこう)が響いた。

 「国民のために、国民を守るために、一体となって闘おう」。教室前方のスクリーンに映し出されたヒトラーが声高に叫ぶ。

 立正大文学部哲学科の2期に開設された、選択必修科目「倫理学の基本諸問題」の初回は、ナチス・ドイツが多数の障害者らを殺害した歴史を扱った。この安楽死政策の本部があったベルリン市内の「ティーアガルテン通り4番地」から名付けられた、いわゆる「T4作戦」である。

 医療者の多くが精神、知的障害者や遺伝病患者らの殺害に自発的に関わり、国民は気付く機会がありながら口を閉ざしたこと、ガス室などでの犠牲者は20万人以上とされること、そしてT4作戦は後のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の予行演習になったこと…。

 文献や映像などを通じて知る、こうした史実に、受講した学生たちは打ちのめされていた。

 独裁者に代わり、今度はこの講義を受け持つ立正大文学部教授、田坂さつきの声が響いた。ナチスに「生きるに値しない命を終わらせる行為」を実行に移させた思想は今も残っていないか。そう問うていく。

 生殖を管理することにより人類を改良しようという優生学は、ダーウィンの進化論を社会にはめ込んだことに端を発し、欧州から米国などへ広がった。日本でも戦前から研究され、戦後の1948年に「不良な子孫の出生防止」を目的に施行された旧優生保護法に色濃く反映された。

 同法は、ナチス・ドイツの「断種法」の考えを参考にした戦前の国民優生法を前身とし、知的障害や遺伝性疾患などを理由に同意なき不妊手術を認めた。同意を条件としながらハンセン病患者への不妊手術も、強制隔離の下では実質的に強制だったとされる。

 96年に母体保護法に改正されるまで強制不妊が続いたが、国の施策が顧みられるようになったのはつい最近のことである。強者が生き残り、弱者が駆逐される「適者生存」「自然淘汰」の考えは深く根付き、事あるごとに日本社会の表層に顔をのぞかせてきた。

 田坂は、学生たちに再び問う。優生学的な思想は残っていないか、あの事件を起こした男のような考えは、君たちの奥底に少しもないと否定できるか、と。

 
 

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