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【減災新聞】東日本大震災7年 胸に刻むあの日

社会 | 神奈川新聞 | 2018年3月27日(火) 17:23

 東日本大震災から7年、あの日を教訓に全国各地で「いのちと地域を守る」取り組みが続く。避難の意識は十分か、伝承と人材育成は進んでいるか。「震災と同じ犠牲と混乱を繰り返さない」との誓いを共有する地方紙などの連携の輪「311メディアネット」が最前線の報告を持ち寄り、備えの強化を呼び掛ける。

神奈川新聞

「団地内避難」に転換


 高度成長期以降、大都市郊外に開発された大規模団地。その一つ、相模原市南区の相武台グリーンパーク(約1600世帯)は東日本大震災後に避難対策を大きく見直した。住民の高齢化も踏まえ、被災後もなるべくとどまる「団地内避難」の定着を図っている。


自治会連合会長の瀬尾守一さん(左)と住民向けの防災マニュアルを確認する竹内一三さん =相模原市南区
自治会連合会長の瀬尾守一さん(左)と住民向けの防災マニュアルを確認する竹内一三さん =相模原市南区

 5階建てが約40棟連なる敷地の各所に立つ「一時避難場所」の看板。駐車場や広場など、七つある街区ごとに独自に定めた災害時の集合場所だ。日ごろ共通の階段を利用する1~5階の計10世帯を共助の最小単位として、安否確認や被害状況の集約などを行う。

 その後、市の指定避難所へ向かうのではなく、団地内で生活を続ける。可能な人は自宅に戻り、無理なら和室のある集会所に-。

 自治会と管理組合が2014年1月に発足させたグリーンパーク災害対策合同委員会の委員長として、見直しの旗を振った竹内一三さん(71)が理由を説明する。「団地住民が押し寄せると、避難所がパンクしてしまう。在宅避難かそれに近い形ができれば、住民の負担も少ない」


相武台グリーンパークの敷地内に確保された一時避難場所を知らせる看板
相武台グリーンパークの敷地内に確保された一時避難場所を知らせる看板

 グリーンパークには約4千人が居住するが、市指定避難所の中学校で受け入れ可能な人数は1290人にとどまる。一定の耐震性がある団地そのものを「サブ避難所」と位置付け、全体訓練を重ねながら住民に意識の転換を呼び掛ける。

 「家具を固定し、不要な物は捨てて」。防災士になった竹内さんは住民向けの講座も開き、在宅避難に不可欠な自助の徹底も促す。

 ◆1980年に入居が始まった相武台グリーンパークは神奈川県中央部に立地。かつて5600人を超えた住民は若者の転出で減少、高齢化も加速する。避難対応の見直しを検証する初回の訓練には約1500人が参加したが、住民の関心維持が課題という。

 【記者の呼び掛け
 懸念される首都直下地震や南海トラフ地震は、いずれ現実となる。備えは万全ではないが、東日本大震災後に意識が芽生えた地域は少なくない。共助を見直す中で気付く自助の大切さ。地道な実践や試行錯誤を重ねていくしかない。

(神奈川新聞社・渡辺渉)


「むすび塾」共催各社の所在地
「むすび塾」共催各社の所在地

311メディアネット 河北新報社(仙台市)が展開する防災巡回ワークショップ「むすび塾」を共催した全国の地方紙、放送局=地図参照=が参加。「共催のつながりを生かし、連携して防災機運を盛り上げよう」と各社が持ち寄った報告を基に、共通のタイトルで特集や連載、番組を組む。

東京新聞

応急の技 体験で普及


 東京都墨田区の建設労働者2800人でつくる労組「東京土建墨田支部」の有志で結成した「自主防災組織ハンマーズ」。身近な建設道具や資材を使い、応急たんか造りやゲームなど約10種類の体験型コンテンツを生み出し、地域の避難訓練や行事で防災意識の啓発を行っている。

 倒壊家屋などから救助する際に用いるジャッキで台を持ち上げ、傾斜を付けて球を転がす「コリントゲーム」は、道具の使い方を楽しく学べる。区内でのイベントで遊んだ大滝周平君 (6)=区立言問(こととい)小1年=は「小さくても、重たい台が持ち上がってすごい」と笑顔を見せた。副キャプテンの村山紀親さん(48)は「防災倉庫に眠る道具を、遊びを通じて身近に感じてもらいたい」と説明する。村山さんは宮城県石巻市出身。東日本大震災で知人が亡くなっている。


体験型イベントを通して防災の大切さを子どもたちに啓発する自主防災組織ハンマーズの活動 =東京都墨田区
体験型イベントを通して防災の大切さを子どもたちに啓発する自主防災組織ハンマーズの活動 =東京都墨田区

 大震災では、東京でも負傷者や家屋損壊の被害が発生した。組合員は震災前も防災訓練で救助を披露していたが、来場者は見ているだけのことが多かった。「震災時に人に頼れるとは限らない。一人一人が自分で命を守るようにするにはどうすべきか」と考え、2014年11月に実践重視のハンマーズを結成。大震災被災地の福島、岩手県も訪れて、支援活動や交流を続け、議論や勉強会を何度も重ねてきた。

 買い物中や仕事中など、いつ震災に遭っても、「中心となって近くの人と助け合おう」がメンバーの合言葉。村山さんは「火災報知機が鳴っても、人は誤報と思いがち。災害への危機意識を恥ずかしがらずに持ち、その大切さを伝え続けたい」と熱く語る。

 ◆東京都墨田区は平地が広がるため、水量の多い荒川が氾濫すると、ほぼ全域での浸水が予想される。東京都が2月に公表した震災時の「地域危険度」では、古い木造住宅が密集する北部で、総合危険度が最も高いランク5と、それに次ぐ4に指定された地域が数多くあった。

 【記者の呼び掛け】地震災害などが続く中、「防災への関心の高さは感じるが、備蓄にばかり気がいきがち。意識が高まったとは言えないのでは」と村山さんは言う。災害時にどこで落ち合うか、何を持って逃げるかなど、家族や地域の人と議論や相談を重ねる大切さを忘れてはならないと感じた。

(東京新聞・中村真暁)

京都新聞

災害用語易しく伝え


 「避難勧告」「余震」「身の安全を確保する」。災害時の専門用語は、日本語が母語でない人にとって耳慣れない言葉が多い。京都府内の日本語教室講師らでつくる「やさしい日本語有志の会」(京都市)では、外国人や外国出身者が多い地域向けに、防災用語を分かりやすい表現に変換する講座を開いている。


災害時多言語支援センターの設置訓練。国際交流協会の日本人スタッフたちが6カ国以上の言葉で情報を発信した =京都府京丹波町
災害時多言語支援センターの設置訓練。国際交流協会の日本人スタッフたちが6カ国以上の言葉で情報を発信した =京都府京丹波町

 観光都市の京都では、定住外国人約5万人に加え、訪日客も年間300万人に上る。外国人も犠牲となった東日本大震災後、外国人が働く工場地帯や結婚を機に来日した外国出身女性が多い地域など、全国から出前講座の依頼が舞い込む。

 2月25日、京都府京丹波町で「災害時多言語支援センター」設置訓練が開かれた。震度6の地震が発生したとの想定で、国際交流協会のスタッフらが行政発表の被害状況や支援情報をやさしい日本語に置き換えた。

 津波を〈とても高(たか)い波(なみ)〉に、「安否を確認する」を〈大丈夫(だいじょうぶ)か聞(き)く〉に。避難所は〈逃(に)げるところ〉と言い換える。

 訓練に参加したインドネシア出身の会社員和田リリンさん(51)は「災害の時に知らない言葉ばかりだとパニックで動けない。簡単だと安心するし、すごく助かる」と話す。

 やさしい日本語有志の会では、防災冊子の監修や行政関係者向け講習にも力を注ぐ。同会事務局長の杉本篤子さん(59)は「やさしい表現は子どもや高齢者、障害者にも伝わりやすい。ユニバーサルデザインとして活用してほしい」と願う。

 ◆減災のための「やさしい日本語」は、弘前大人文社会科学部(青森県)の佐藤和之教授が提唱。言い換えの基本原則として「重要度が高い情報だけに絞り込む」「難解な語いを言い換える」など5項目がある。詳細はホームページ、減災のための「やさしい日本語」で閲覧できる。

 【記者の呼び掛け
 東日本大震災で被災したフィリピン出身女性に取材した際、言葉の壁で同胞が津波の犠牲となった無念さを語っていた。外国出身でも言語や背景はさまざま。災害時は英語を使うよりも簡単な日本語の方が伝わるケースも多いという。

(京都新聞社・今野麦)

宮崎日日新聞

次世代のリーダー育成


 枕元に必ず置く防災ずきん、懐中電灯、靴の3点セットは「寝ている時の地震に備え、命を守るための防災グッズです」。宮崎市・木花中1年の清水蒼太さん(13)は日頃から備えを忘れない。新聞やテレビなどで災害報道を目にすれば「自分ならどう行動するだろう」と考える。


災害に備えた「かまどベンチ」を使う子どもたち。講座を通じ、防災意識を高める =宮崎市
災害に備えた「かまどベンチ」を使う子どもたち。講座を通じ、防災意識を高める =宮崎市

 小学4年生の時、同市・木花地域まちづくり推進委員会が開く「少年防災マスター養成講座」に初めて参加した。それまで特に意識してこなかった災害や防災について講話などを通じ関心は高まった。

 江戸時代に日向灘で起こった「外所地震」で、津波にも襲われた同地域。2011年に東日本大震災が起こり、南海トラフ巨大地震も懸念される中、同講座は14年に始まった。年2回開き、子どもたちの防災意識を高めようと、住民だけでなく、地域の小中学校も協力して校内で受講者を募る。講座のプログラムは専門家による地震や津波などの解説、避難に関する図上訓練や高台避難などさまざまだ。

 昨年8月には熊本地震の被災地訪問も組み込み、子どもたちは損壊した熊本城などを目にした。学園木花台小5年の森田悠月さん(11)は「実際に被災地を訪れることが大事。登下校時の避難場所や、高い所がどこかを考えるようになった」と口にする。

 同講座は17年度までに8回を終え、延べ100人が受講した。同委員会安全推進部会長の山崎泰道さん(72)は「災害や防災への感性を高めてもらうのが狙い。将来の防災リーダーとなるきっかけづくりの場として継続していく」と力を込める。

 ◆宮崎市の木花地域などを襲った外所地震は1662年に発生。日向灘を震源とし、マグニチュード(M)7・6と推定される。同市を中心に津波も襲い、沿岸部の村や田畑などが海に沈んだとされる。同地域の島山地区には古くから約50年ごとに供養碑が建てられ、現在7基存在する。

 【記者の呼び掛け
 自然災害による被害を最小限に抑えるには大人だけでなく、子どもの防災意識向上も欠かせない。ただ、ソフト対策は一朝一夕にはいかない。少年防災マスター養成講座のように、住民や学校など地域全体でスクラムを組んで備えを進めることが大切だ。

(宮崎日日新聞社・赤塚盟)

北海道新聞

教育旅行 根付かせ


 北海道南西沖地震から7月で25年が過ぎる。津波が直撃した奥尻島では次世代に教訓を伝えようと、島を挙げて、防災学習を組み込んだ教育旅行を受け入れている。参加校の中でも、函館市の函館ラ・サール高は2010年から毎秋、1年生が訪れて、実践的な避難訓練を行っている。


津波避難施設の前で「自分たちの経験を若い人たちに伝えていきたい」と話す観光協会の佐野由裕事務次長
津波避難施設の前で「自分たちの経験を若い人たちに伝えていきたい」と話す観光協会の佐野由裕事務次長

 「津波の発生があります。ただちに避難してください」。防災サイレンが鳴り放送が流れると、島内5カ所から住民役の生徒が一斉に避難。約10分後に高台の避難所に全員到着した。生徒の1人は「実際は3分後に島の一部に津波が到着したと聞いた。本当の避難だったら自分たちは死んでいた」と冷静に振り返った。

 昨年10月、函館ラ・サール高の生徒151人が2泊3日で奥尻島を訪問。避難所開設や誘導を行う救護役と、避難住民役に分かれ、被害の大きかった青苗地区で避難訓練を実施した。

 避難所では段ボールで寝床を作り、市販の仮設トイレを組み立てた。同校の井上誠教諭(41)は「生徒は卒業すると全国に散らばる。その場所で災害が起これば、若い彼らが中心となって対処しなければならない。得難い経験になったはずです」と捉えている。

 こうした教育旅行は05年に始め、これまで約2300人の児童生徒が参加。実施の中心となっている観光協会の佐野由裕事務次長(36)は「自分たちの経験を若い人たちに伝えたい。災害に備える意識を持ってほしい。実際にそれが生死を分ける」と強調している。

 ◆北海道南西沖地震は1993年7月12日午後10時17分に発生。マグニチュード(M)7・8。奥尻島の推定震度6。死者・行方不明者は道内と青森県で計230人。奥尻島には海抜20メートル超の津波が押し寄せ、火災も発生。死者・行方不明者は198人に上った。

 【記者の呼び掛け
 「青苗は消えた」「○○君が死んだ」。南西沖地震から8カ月後に青苗小学校が発行した作文集を、初めて読んだ。率直すぎる言葉が並び、やりきれない気持ちになる。同様の思いをさせないために、教訓を伝え続けなければならない。

(北海道新聞・日栄隆使)

河北新報

被災記憶つなぐ朗読


 東日本大震災で関連死を含め約930人が犠牲になった仙台市で、草の根の震災伝承が続いている。

 津波被災した住民の体験記をステージで読む「朗読のつどい」。2013年に始まり、毎年3月に開く。あの日を思い起こし「同じ犠牲を繰り返さない」と誓う被災地発の取り組みだ。


被災地への祈りを込めた歌を披露した出演者。あの日を語り継ぐ誓いを新たにした =仙台市宮城野区文化センター
被災地への祈りを込めた歌を披露した出演者。あの日を語り継ぐ誓いを新たにした =仙台市宮城野区文化センター

 6回目を迎える今年は、3日に宮城野区文化センターで実施し、地元の主婦ら13人が1編ずつ計13編を読み上げた。乗っていた車ごと真っ黒い濁流にのまれ「もう駄目だ」と死を覚悟した話。避難先の体育館で津波に襲われ、曽祖母を亡くした悲しみ。迫る火災の恐怖と寒さに震えた夜…。生々しい証言と修羅場を生き抜いた教訓をギター演奏などに乗せて伝えた。

 主催は、市宮城野地区婦人防火クラブ会員らでつくる「婦防みやぎの朗読会」。同クラブ港支部が発行した体験文集から引いて読む。「せっかくの貴重な記録も活用されなければ忘れられてしまう」。風化への危機感を原動力に毎週けいこを重ねてきた。

 宮城野区南蒲生地区の自宅が被災した佐藤美恵子さん(71)は、港支部長の時に仲間と文集を制作。「忘れられつつある当時の困難を振り返り、備えに生かしてほしい」との思いから、朗読会にも毎回出演する。

 「地域で暮らす住民の体験だからこそ胸を打つ」と朗読会会長の野田幸代さん(66)。「風化に抗(あらが)うためにも被災した一人一人の思いを紡ぎ、震災の記憶を後世につなげたい」と言う。

 ◆朗読会で読む手記の多くが、2013年発行の「東日本大震災の体験文集2」(計92編)に収録。仙台市宮城野区の被災住民らがつづった。連絡先は市宮城野地区婦人防火クラブ連絡協議会事務局の市宮城野消防署予防課電話022(284)9211。

 【記者の呼び掛け
 朗読会はさまざまな震災体験を共有する場だ。体験を数多く知ることで次代に残す教訓に説得力が生まれる。シンプルで地道な取り組みだが、震災の教訓を伝承する出発点ともいえる。体験の分かち合いがもたらす力を信じたい。

(河北新報社・藤田和彦)

神戸新聞

諦めないため「宣言」


 阪神・淡路大震災で多数の家屋が倒壊、焼失した神戸市長田区の真陽地区は、その教訓から自主防災組織「真陽地区防災福祉コミュニティ」(防コミ)を中心に防災に取り組む。東日本大震災後、津波災害時にいち早く避難することを重視。その一つが災害時の行動を宣言する「クレド」(ラテン語で「約束」)だ。

 南海トラフ巨大地震では地域の8割が津波で浸水するとされる。人口は約6700人で新旧住民が混在。高齢化率は3割を超える。

 東日本直後、防コミ本部長の中谷紹公(つぐまさ)さん(70)は消防署の依頼でメンバーと地域を回り、津波の可能性を伝えたが、なかなか状況を理解してもらえなかったという。また、津波の映像に「諦めるしかない」との空気も広がった。


拡声器を使った津波避難の呼び掛けを訓練する中谷さん(中央)ら =神戸市長田区
拡声器を使った津波避難の呼び掛けを訓練する中谷さん(中央)ら =神戸市長田区

 そこで関西大学の近藤誠司准教授(災害情報学)と連携し始めたのが「クレド」。住民1人1人が災害時の行動や事前の備えを宣言する。「逃げるが勝ち」「早く高台へ」「子どもを落ち着かせる」。学生が地域や地元小学校を回って宣言を集めた。写真に収めてカレンダーを作り、各戸に配布して思いを共有する。「前向きな言葉を発することで積極性や責任感を生み出す」と近藤准教授は話す。

 ほかにも、拡声器を持った「トラメガ(トランジスタメガホン)隊」(約60人)が鳴らすサイレンを聞いたらすぐ高台へ避難する“真陽ルール”も防災訓練に盛り込んだ。中谷さんは「巨大災害への意識を浸透させるためあらゆる手だてを講じたい」と力を込めた。

 ◆阪神・淡路大震災を教訓に地域の結び付きで防災力を高めようと、神戸市は各小学校区単位で「防災福祉コミュニティ」の整備を進めた。自治会や消防団が中心になり現在は市内全域の191地区で発足。防災訓練や住民間の関係強化に取り組む。

 【記者の呼び掛け
 「とても逃げられない」。東日本大震災の津波の映像に高齢者らは意気消沈したそうだ。気持ちは分かるが、後ろ向きな意識は災害への備えをも諦めさせてしまう。約束を口にすることで、自身の防災行動を見つめ直すきっかけにしたい。

(神戸新聞・井沢泰斗)

高知新聞

地域密着し進む耐震


 高知県黒潮町の出口(いでぐち)地区は海に近い集落で130世帯ほどが集まっている。比較的古い家が多いこの集落で2年ほど前から、ちょっとした“耐震ラッシュ”が起きている。


合板を壁に張る耐震工事。地域ぐるみで耐震が進んでいる=2月16日、高知県黒潮町出口
合板を壁に張る耐震工事。地域ぐるみで耐震が進んでいる=2月16日、高知県黒潮町出口

 「『家の下敷きになったら逃げられなくなりますよ』と説得して、やっと工事のオッケーをもらえたんですよ」。合板を張り付ける作業が進む民家の中で、金子省三さん(62)が話す。金子さんはこの地区で建築業を営んでいて、「ほら、あの家もその隣も、うちが改修したんです」。

 南海トラフ地震の津波被害を軽減するために-。崩れた家に閉じ込められたり、けがをしたりしては避難どころではない。そこで高知県が力を入れるのが住宅の耐震化だ。

 全国最大の34メートルの津波想定が出されている黒潮町は、改修工事の知識を持つ業者を増やすことに着手した。2015年度から業者向けの勉強会を開催。登録業者数は現在38社で、14年度の4倍近くに増えた。

 効果は目に見えて表れ、町の担当者は「業者が顔なじみなので、住民も工事を申し込みやすくなったようだ」と言う。補助金制度や、町職員らが各戸を訪問して耐震を勧める取り組みも相まって、17年度の工事見込みは134棟と14年度の10倍になった。

 県住宅課によると、県全体の16年度の改修工事は東京都に次いで多い1227棟。同課は「住民と顔なじみの業者を増やす『地域密着型』の耐震を広げたい」としている。

 ◆住宅の耐震化を進めるため、高知県や市町村による一律の補助制度(設計20万5千円、改修92万5千円)がある。上乗せの補助制度を設けている自治体もあり、黒潮町は一律分と合わせ改修工事の補助は最大で110万円。自己負担なしで改修できるケースも。

 【記者の呼び掛け
 国から津波高34メートルの想定が示された後、黒潮町は住民に広がった「あきらめ感」と戦ってきた。今では住民同士が住宅耐震を勧め合う雰囲気もある。町の「犠牲者を限りなくゼロにしたい」という強い思い。備えは着実に進んでいる。

(高知新聞社・海路佳孝)

中日新聞

産学官民で人材育成


 2014年5月に一般公開され、昨年10月に5万人の来訪者を迎えた。建物全体を震度3程度に揺らすことができる仕掛けや、地下の免震装置をガラス張りにして見せるなどユニークな工夫を凝らしている。ここは啓発はもちろん人材育成の場であり、産官学民連携の拠点でもある。


産官学民連携の防災拠点として活用される名古屋大減災館。建物全体を揺らせるなど体験機能も備える =名古屋市千種区
産官学民連携の防災拠点として活用される名古屋大減災館。建物全体を揺らせるなど体験機能も備える =名古屋市千種区

 昨年6月、愛知県、名古屋市、名古屋大、産業界が人と予算を出し合い「あいち・なごや強靱化(きょうじんか)共創センター」を設立した。研究や支援などの機能を備え、中小企業や福祉施設、行政向けのBCP(事業継続計画)講習会を開き、被災時にも企業が存続できるよう、インフラやライフラインの脆弱(ぜいじゃく)性を探り、解消する研究も進めている。

 センター設立のきっかけが、行政や産業、学術界の70組織が自らの弱点をさらけ出す「ホンネの会」と、産業集積地の西三河9市1町と産業界が議論する「西三河防災減災連携研究会」だ。福和伸夫センター長は「皆が同じ船に乗っているという認識と本音を話せる信頼関係が醸成された結果、組織を越えた横断的議論ができるようになった」と話す。

 今後30年で、最大80%の確率で起こるとされる南海トラフ巨大地震。広い想定被災地には日本の火力発電所の半数があり、自動車輸出量は9割、製造品出荷額も6割に上る。福和センター長は「ここがこけたら国がなくなる。日本、世界に迷惑を掛けないようにすることが役目」と話す。

 ◆2014年3月完成。5階建てで1、2階を同年5月から一般公開。月1回ゲストを招いて防災アカデミーを開催するほか、名古屋大教授らが毎日ギャラリートークを開いている。10人以上は予約が必要。開館時間は午後1~4時。連絡先は名古屋大減災連携研究センター電話052(789)3468。

 【記者の呼び掛け
 福和氏に「ホンネの会」の設立経緯を聞いた。企業の防災担当者との酒席で電力会社は「災害時、電気は2週間はだめ」。製造業は「ガス発電だから大丈夫」と言ったが、ガス企業は「ガスは電気がないと作れない」。皆が言葉を失った。「このままじゃ、まずい」との危機感が出発点にある。

(中日新聞・塚田真裕)

毎日放送

アプリ使い避難訓練


 南海トラフ巨大地震に備え、スマートフォンのアプリを使った避難訓練が行われている。津波想定のデータを組み込んだ個別避難訓練アプリ「逃げトレ」で、京都大防災研究所が2019年春の完成を目指して開発を進めている。

 地震から何分後に避難を始めるのかをセットすると、GPS(衛星利用測位システム)機能で自分のいる場所が地図上に表示され、時間を追って浸水範囲が広がってくるのが確認できる。スマホの画面を見ながら津波から逃げる訓練が、1人で何度でもできる。

 堺市で2月25日に行われた訓練では、地元の羽衣国際大の学生15人が「逃げトレ」を使って避難した。


スマートフォンの画面を見ながら避難訓練に取り組む大学生たち =堺市
スマートフォンの画面を見ながら避難訓練に取り組む大学生たち =堺市

 南海トラフ地震で堺市には、1時間40分で津波の第1波が到達すると想定されている。津波が迫る状況を体験するため、学生たちは避難開始を地震の1時間40分後などの遅い時間に設定。近所の高齢者施設に立ち寄り車いすの利用者と一緒に逃げるなど、厳しい条件で訓練に臨んだ。

 津波から逃げ遅れ、画面上に「避難失敗」と表示され、再度訓練を行ったチームもあった。津波は海だけでなく、川からも押し寄せる。ベトナム人留学生のダン・ヒュエン・ミンさん(23)は「画面で津波が迫ってきて怖かった。焦るとどう逃げていいか分からなくなる」と振り返った。

 アプリを開発した京大防災研の矢守克也教授は「失敗から学ぶのが大切。アプリを活用し、地元の地震や津波のリスクを若い人にも把握してほしい」と語った。

◆「逃げトレ」のダウンロードはアンドロイド版http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/sip/android.html アイフォン版http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/sip/ios.html 連絡先は京都大防災研究所・矢守研究室=メールsip-yamori@drs.dpri.kyoto-u.ac.jp
 
 【記者の呼び掛け
 地域の学生を巻き込み、実感を伴った訓練をするために避難訓練アプリの利用は有効だ。避難開始が遅れる車いす利用者と一緒に避難するなど、条件を変えて訓練を繰り返すことで、想定外の事態にも対応できる力をつけたい。

(毎日放送ラジオ・亘佐和子)

 
 

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