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記者の視点=石橋学
時代の正体〈586〉政治家自ら差別扇動 朝鮮総連銃撃テロ事件(下)

社会 | 神奈川新聞 | 2018年3月8日(木) 15:19

銃撃テロ当日、文科省前の抗議行動に集まった朝鮮学校生=2月23日
銃撃テロ当日、文科省前の抗議行動に集まった朝鮮学校生=2月23日

 未明の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部(東京都千代田区)に銃声が響いた2月23日、その日も在日コリアンの若者たちは文部科学省前へ足を運ばなければならなかった。

 「朝、同級生のLINEに知らせが入って。正直、ここへ来るのが怖かった」

 横須賀市から東京朝鮮中高級学校に通う3年生の男子生徒はそうこぼした。

 朝鮮学校への高校無償化制度の適用を求め、卒業生である朝鮮大学校の学生が毎週続ける「金曜行動」。この日は東京朝鮮中高級学校の生徒も駆け付け、外国人学校も対象にした制度から唯一除外されている不条理に抗議の声を上げた。

 ハンドマイクを握る女子学生の表情が意を決したようにこわばっている。

 「文科省の皆さん、きょうも私たちはここに来ました。今朝、朝鮮総連に男2人が発砲したという話を聞くことになりました。私は信じられないと思う半面、日本では朝鮮人や朝鮮総連なら嫌ってもいい、危害を加えてもいいと思う心理が深く、根強いものだと感じました」

 当たり前の権利を求めているだけ、存在を認めてほしいだけと口々に訴える学生のほとんどがそうであるように、なぜ自分たちがここにいるのかを語った。

 「私たちは日本の植民地統治の結果、日本に渡ってきた朝鮮人の子孫です。解放後すぐに植民地時代に奪われた言葉、歴史、文化を取り戻すため1世の同胞たちはウリハッキョ(私たちの学校)を建てました。それなのに、日本政府はいまだに在日朝鮮人に対して差別を続け、朝鮮高校を高校無償化制度から除外しています」

 差別がまかり通るのは無知だからか、無視されているからなのか。その両方だろう。安倍晋三政権は過去の歴史に向き合うどころか美化してみせる。国に追随し、神奈川県をはじめとする全国の自治体も朝鮮学校への補助金を打ち切る。無償化を巡る裁判で司法も国の判断を追認する。政治や国、自治体、司法を上げて差別を正当化している以上、人々が問題のありかを広く知ることは難しい。

 女子学生は続けた。

 「そうやって日本政府が私たちを無視し、弾圧する態度に植民地支配を反省せず、清算もしない日本政府の本質が露骨に現れています。日本政府が、当たれば人を殺せる銃を発砲するような、そしてそのような行動をいとわない日本人を育てたことを自覚するべきです」

 公による「上からの差別」が民衆の「下からの差別」を扇動し、両者は共鳴しながら、その一つの帰結として引き金は引かれた。

 そして、この日の国会。自民党の山田賢司議員は、卑劣で危険なヘイトクライム(憎悪犯罪)を真っ先に非難すべき公人が果たすべき務めとは正反対のことをしてみせた。

 衆院予算委員会で北朝鮮問題を巡り、「朝鮮大学校で物理工学や情報工学の授業が行われているのは国連安保理決議違反ではないのか」と質問し、やはり北朝鮮国民への労働を許可しないと決めた国連決議を引き、「わが国において、北朝鮮国籍者に労働許可を提供しないことをどのように担保しているのか」とただした。

 在日コリアンを標的にした銃撃テロが起きた当日に、学ぶ権利や働く場を奪えというメッセージを発信し、在日コリアンの生存を脅かすヘイトスピーチで差別に追い打ちをかけてみせたのだった。

「恥を知れ」


 公人の姿勢に彼我の差を思う。

 昨年8月、米バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者による轢殺(れきさつ)事件。人種差別に反対するために集まった人々の列に差別主義者の車が突っ込み、女性1人が犠牲になるというヘイトクライムに、テリー・マコーリフ州知事は直ちに声明を出した。

 「今日シャーロッツビルに来た白人至上主義者とナチに伝えることがある。とても簡単な話だ。帰れ。恥を知れ。お前たちは愛国者のふりをするがそれは誤りだ。お前たちは今日人々を傷つけるためにここに来て、実行した。ここにもアメリカのどこにも、お前たちの居場所はない」

 トランプ大統領は全米から非難を浴びた。現場にいた差別主義者と対抗グループのどちらの側にも暴力の責任があると発言し、差別主義者を擁護しているとみなされたからだ。差別発言をしたからではなく、明確に断罪しなかったことを指弾される。マイノリティーの生存を脅かし、社会を分断する差別に断固闘う姿勢を示すことが政治的指導者の務めだというスタンダードがここに示されている。それは日本を含めた人種差別撤廃条約に加入している国の政治家として果たすべき義務でもある。

 対する山田氏の国会質問の醜悪さはどうだ。そこに映し出されるのは、制裁という大義名分の下、人権侵害がまかり通る現状だ。

 そもそも韓国籍、日本国籍以外の在日コリアンの「朝鮮籍」は「北朝鮮国籍」ではない。朝鮮籍は、植民地支配によって「皇国臣民」にされた朝鮮人から戦後、「外国人とみなす」という政策の下、一方的に日本国籍を奪い、まだみぬ国家のかわりに「朝鮮」という地域の総称としてあてがった「記号」にすぎない。無国籍、無権利状態に追いやった責任が日本政府にはある。その朝鮮籍の人々を北朝鮮と意図的に結び付け、制裁の対象に位置づけるという悪質さ。北朝鮮に関係しているとみなせば、教育とは無関係な拉致問題を持ち出してでも朝鮮学校を弾圧してみせるという手法がここでも踏襲されたのだった。

放置するな


 研究者や弁護士らでつくる外国人人権法連絡会のほか、ヒューマンライツ・ナウなど非政府組織(NGO)5団体は2月28日、ヘイトクライムに対する共同声明を発表した。第一に求めているのが、政府が事件を非難する声明を直ちに公表することだ。そして「在日コリアンをはじめとするマイノリティー集団への差別意識・排外主義に基づく犯罪行為に対しては厳格に対処していくことをあわせて言明すべき」とする。

 同様の事件は頻発している。北朝鮮の核開発が取りざたされた1990年代、朝鮮学校に通う女子生徒のチマ・チョゴリが切り裂かれ、暴力や暴言を受けるヘイトクライムが相次いだ。ヘイトスピーチが横行するようになった2009年から10年にかけては、京都朝鮮第一初級学校に「在日特権を許さない市民の会」(在特会)をはじめとする人種差別団体が襲撃し、「スパイの子ども」「保健所で処分しろ」などと悪罵をまき散らした上、学校の機材を破壊する行為に及んでいる。17年5月には名古屋市内の民族系信用組合に、慰安婦問題で韓国に不満を募らせた男が火を放つ事件も起きた。

 ヘイトクライム当日、ヘイトスピーチ解消法が根絶を求めているにもかかわらず、卑劣な犯罪と地続きの差別的言動を政治家自らが吐く。禁止、制裁規定がなく、実効性が弱いという解消法の課題があらためて浮き彫りになった。

 声明は、ヘイトクライム再発の防止を求め、人種差別禁止法と、人種差別を動機とした犯罪に刑罰を加重するヘイトクライム法の制定を呼び掛ける。

 「日本には人種差別それ自体を禁じる法律はなく、人種差別は許されないという社会的認識も低く、また、日本における人種差別の実態について、教育現場で教えられることはほとんどありません。今後のヘイトクライムの発生を防止するためにも、政府は、ヘイトスピーチ解消法を実効化し、さらに人種差別禁止法およびヘイトクライム法を速やかに制定すべきです」

 NGO5団体はインターネット署名で賛同者を募っている。3月7日午後9時現在、2430筆。私もクリックして賛意を示した。やれることのをすべてを尽くす、その行動の一つとしてである。

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