全国各地のリングを飛び回りながら、昨春から川崎市立高校の定時制で勉強に励むレスラーがいる。プロレス団体「プロレスリング・ノア」に所属する、大原はじめ、33歳。夢は闘う理学療法士になること、そして、もうひとつ、自分の生き様を通し、人生には無限の可能性があることを若者たちに伝えることだ。
川崎市中原区にある市立橘高校の教室。少し窮屈そうにしながら174センチ、90キロの鍛え上げられた肉体を机に収める大原がいた。
平日の午前中はトレーニングに明け暮れ、夕方からは眼鏡をかけ、ファンから差し入れでもらったという学習ノートを開く。週末は一番輝ける場所であるリングへ。
コーナーポストに上り、空中を飛ぶ。突進してくる相手をジャンプして飛び越え、タックルする。自分よりも大きなレスラーを持ち上げてリングにたたきつける。息もつかせぬ技の応酬で喝采をもらう。
担任教諭の山上辰朗は、その真面目な学習態度に目を細める。「努力すれば、できるっていうことを証明してくれている。若い子たちのお手本」。この前のテストでは6教科中5教科で100点満点を取った。