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署名活動リーダー林田光弘さん
時代の正体〈578〉非核にこそ未来がある 核兵器禁止条約(下)

社会 | 神奈川新聞 | 2018年2月16日(金) 16:56

「核兵器は常に日本の安全保障を脅かし続けてきた。そうであるからこそ、日本は『唯一の被爆国』として核兵器禁止条約を率先して採択に動くべきであった」と話す林田光弘さん
「核兵器は常に日本の安全保障を脅かし続けてきた。そうであるからこそ、日本は『唯一の被爆国』として核兵器禁止条約を率先して採択に動くべきであった」と話す林田光弘さん

【時代の正体取材班=田崎 基】北朝鮮が核開発を進め、米国のトランプ大統領は先制攻撃をも示唆し「全ての選択肢がテーブルの上にある」と言い募る。安倍首相は「米国の姿勢を100パーセント支持する」と口にする。日本政府は核の脅威にさらされていると強調しておきながら核兵器禁止条約交渉は核保有国とともにボイコットした。「ヒバクシャ国際署名」活動リーダーの林田光弘さん(25)は訴える。「そこにはまっとうな合理性も論理も未来もない」連載(上)はこちら

身勝手な論理


 なぜ冷戦も終わった21世紀、それも2017年になってようやく核兵器禁止条約は採択されたのか。半世紀にわたる世界的な核廃絶を求める市民運動が実を結んだ側面に加え、いまもなお大量の核兵器が存在しているという現実が背景にある。

 これまで核兵器を規制する枠組みは1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)しかなかった。内容は「国連安全保障理事会常任理事国5カ国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)は核を保有していいが、それ以外は駄目」というもの。95年までに核兵器を段階的に減らしゼロにする努力を5カ国がするという約束を交わした。

 だが95年になってどうだったか。冷戦は終わり核兵器を使用するような状況は少なくなったが、5カ国は依然、核を保有し、数もほぼ減らなかった。

 その状況に「保有してはならない」とされた国々は反発した。「未来永劫(えいごう)、核保有国から脅され続けることを約束したつもりはない」と。

 NPTはこのままでいいのか。そのための再検討会議を5年に1度行うことになった。ところがその後も全くと言っていいほど進展しなかった。

 そこでNPTの枠組みの外で核を保有する国が現れた。それがインド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮といった国々だ。

 「核保有国が約束を守らずに努力を怠っているのに、なぜ核兵器を持っていない国だけがその約束を守らなければならないのか」

 北朝鮮が核開発をやめない理由の一つはここにある。「自分たちだけが非難されるいわれはない」と。

 核保有国が他国に対して「核を持つな」という主張は身勝手な論理と受け止められつつある。核兵器禁止条約の採択を主導したのはメキシコやスイス、オーストリアといった国々。このほか既に、50カ国以上が条約に署名した。核・ミサイル開発を繰り返す北朝鮮を責めつつも、核保有5カ国にも非があると考えている国は少なくない。


核兵器禁止条約と日本の振る舞いについて話す林田光弘さん
核兵器禁止条約と日本の振る舞いについて話す林田光弘さん

根本的な問い


 こうした行き詰まりの状況に転機が訪れたのが2010年4月。NPT再検討会議の直前に、当時の赤十字国際委員会総裁のヤコブ・ケレンベルガー氏が重要な声明を発表した。「そもそも核兵器は5カ国であっても使用してはいけないのではないか。なぜなら非人道的だからだ」

 医療の立場からの主張は極めて説得力があった。例えばどこかの都市に対し核兵器が投下された場合、生き残った人々を救出、治療することができるだろうか。被爆の恐れがあるため爆心地周辺に近づけないかもしれない。

 化学兵器は既に禁止条約があるにもかかわらず、核兵器には禁止条約がなかったのだ。これは「5カ国は持っていい」とか「自衛のためならいい」などという発想自体が間違っているという根本的な問いだった。

 その後13~15年にかけて3回の国際的な会議が重ねられた。核は他の兵器とどう違うのか。どれだけ非人道的なのか。科学的な検証が行われた。広島、長崎の被爆者の実体験にも耳が傾けられた。そして他の兵器とは被害のレベルが全く違うということが論証されていった。この積み重ねを受け16年の核兵器禁止条約提案という流れにつながっていった。

第3の選択肢


 条約では、北朝鮮が核兵器を保有した状態でも締結できる形になっている。その場合求められているのは段階的な核兵器削減を確約することだ。いま北朝鮮に対してどのようにして核を放棄させるのかということを明文化しているのはこの条約しかない。

 日本も米国も北朝鮮の核を「脅威」と繰り返す一方、具体的にどのようにして廃絶させるのか、その手段や過程を示せていない。「最大限の圧力」などで北朝鮮が核を放棄することなどあり得ない。むしろ北朝鮮は態度を硬化させており、逆効果だ。

 こうした現状を踏まえると、日本政府は国際政治の場で損をしているとしか考えられない。核禁止条約交渉で、「唯一の被爆国」として日本は世界のリーダーになれたはずだからだ。日本の安全保障環境を脅かし続ける核兵器を廃絶しようとすることは、日本にとっては論理的必然である。

 さらに、米国は核を保有している理由を「同盟国のためだ」と説明している。このことに目を向ける必要がある。

 では北朝鮮は何を言っているか。「米国から常に核の脅威にさらされている。このことから自国を守るために核を保有する」と主張している。

 この二つを照らし合わせてみる。

 米国の同盟国である日本が「核はもはや必要ない」と言い出せば、米国は核兵器を保有し続ける正当性を失う。北朝鮮にしても外的脅威がなくなれば核廃絶への動機が生まれる。論理的に考えて両国とも核兵器を保有する必要性がなくなるわけだ。


はやしだ・みつひろ 「ヒバクシャ国際署名」連絡会キャンペーンリーダー。2009年に「高校生平和大使」として活動した。15年、安全保障法制反対を訴えた学生団体「SEALDs(シールズ)」の創設メンバー。
はやしだ・みつひろ 「ヒバクシャ国際署名」連絡会キャンペーンリーダー。2009年に「高校生平和大使」として活動した。15年、安全保障法制反対を訴えた学生団体「SEALDs(シールズ)」の創設メンバー。

 にもかかわらず日本政府が「米国の核の傘は必要だ」と言い続けるのは、世界の平和を真摯(しんし)に考える上であまりに不誠実だろう。

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