
判決というものが時代の合わせ鏡であるのなら、その判断は確かに日本社会の「いま」を映し出していた。街中やインターネット上におけるヘイトスピーチ(差別扇動表現)によって名誉と尊厳を傷つけられたとして、在日朝鮮人の女性フリーライター李(リ)信恵(シネ)さん(45)=大阪府東大阪市=が人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と桜井誠前会長(44)に計550万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は77万円の支払いを命じた。判決が問い掛けるものを考える。
9月27日、判決後に大阪市内で記者会見に臨んだ李さんの顔に浮かんでいたのは、少しの安堵(あんど)とまだ続く闘いに向けた覚悟を示す硬い表情だった。
「桜井氏や在特会がやってきたことが民族差別だと認められ、非常に良かった。小さな勝利かもしれないが、今後も小さな勝利を積み重ねていけたらと思う」
判決理由で増森珠美裁判長は、在特会側によるネット番組「ニコニコ動画」での発言や短文投稿サイト「ツイッター」への「鮮人記者」といった書き込みを「侮辱的な表現で容姿をやゆしたり、執拗(しつよう)に攻撃したりするもので、誹謗(ひぼう)中傷が主な目的だ」と認定。街宣活動中の「朝鮮人のババア」などの発言も侮辱に当たると判断した。
そして550万円の請求に対して命じられた77万円の支払い。会見に同席した原告代理人の大杉光子弁護士は「これまでの判例からすると、名誉毀損(きそん)の賠償額として50万円くらいと考え、そこに人種差別という点を加算して77万円という金額を算出したのではないか」と解説した。
ず れ
会見を終えた足で向かった集会で、支援者を前に大杉弁護士はこれまでの経過と判決内容を報告した。
「桜井氏の発言は単なる侮辱とか名誉毀損というレベルではなく、差別であるということを訴えてきた。人種差別であり、女性差別でもあるという複合差別だと訴えてきた」
判決では桜井氏の言動は人種差別であり、在日朝鮮人への差別を増幅させることを意図して行われたものであることは明らかだと認定された。それは日本も加入する人種差別撤廃条約の趣旨に反しており、慰謝料の金額は考慮されなければならないとしている。インターネット上に公開するなどした行為態様も悪質だと評価されている。
大杉弁護士は「人種差別であり、ネット上の差別行為であると認められた意義は大きい」と評価しつつ、そうであるなら、と続けた。
「人種差別である点を考慮し、ネットによる悪質な行為だというのなら、もっと賠償額を上げるべきではないか、というのが正直なところだ」。もう一人の代理人、上瀧浩子弁護士も「インターネット上でのヘイトスピーチは不特定多数が目にすることができ、次々とコピーされ、差別が永遠に継続する。そうした性質のものであるということをもう少し配慮してほしかった」。