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ヘイトスピーチ考
時代の正体〈575〉差別禁じず「最下位」 条例はなぜ必要か(3)

社会 | 神奈川新聞 | 2018年2月9日(金) 10:48

外国人の人権保障施策を比較して論じる近藤教授=4日、横浜市開港記念会館
外国人の人権保障施策を比較して論じる近藤教授=4日、横浜市開港記念会館

時代の正体取材班=石橋 学】神奈川県弁護士会人権擁護委員会(本田正男委員長)が主催したシンポジウム「ヘイトスピーチ規制を考える 川崎の実例を踏まえて」。登壇した名城大の近藤敦教授は自身も携わった、外国人の人権保障に関する国際比較「移民統合政策指数」の調査結果を解説した。差別禁止の項目で、欧州連合(EU)を中心とした先進国38カ国中37位という日本の結果について「日本には正面から差別を禁止する法律がない」-。

 日本の差別禁止政策の総合評価は38カ国中、下から2番目の37位。最下位はアイスランドだが、個別の法律に差別禁止規定があるにもかかわらず、特別な差別禁止法がないためにプラス評価ができないと思って回答してしまい、実態よりも低い評価になっているという。

 日本も差別禁止法がないが、労働基準法には国籍差別の禁止規定が盛り込まれているので、労働分野ではプラスの評価になる。アイスランドも個別の法律に差別禁止規定があるので、それらを拾っていくと違った回答になり、総合評価は変わってくる。

 ヘイトスピーチに関連する項目もアイスランドはゼロと評価しているが、刑法にヘイトスピーチを罰する規定がある。各国と同じ評価法にならえば、恐らく日本より高くなるのではないか。

 差別禁止法もなく、ヘイトスピーチを禁じていない日本こそが最下位。2015年の最新調査の1年後に施行されたヘイトスピーチ解消法も個別法にすぎず、禁止規定のない理念法にとどまる。各国の取り組みからは日本の「周回遅れ」ぶりが鮮明になる。

 米国やカナダ、スウェーデンなどでは、禁止内容に「人種的プロファイリング」というものもある。日本の警察は外国人と見たら在留カードを持っていますか、と当たり前に職務質問する。公安当局がムスリム(イスラム教徒)の個人情報を収集していたことも明るみに出た。そうしたことができない規定があり、黒人グループを根拠もなく疑って捜査するといったことはできない。

 ドイツには特定の集団への憎悪をあおり、誹謗(ひぼう)中傷などで人間の尊厳を害した者を罰する民衆扇動罪がある。1960年代のネオナチの台頭が人種差別撤廃条約制定の背景にあるが、とりわけドイツにはナチスの重い教訓がある。民主主義はすべて自由で、いかなる発言も認められるなどと言っていると、あっという間にナチスのような政権が誕生し、ユダヤ人の大量虐殺や悲惨な戦争へとつながってしまう。未然の阻止が必要という認識があり、ドイツに限らず欧州諸国では一般的な認識だ。

 国際人権諸条約やドイツ憲法におけるキーワードは「人間の尊厳」。ヘイトスピーチを規制する法律の根拠となる。性的指向に対する差別も深刻な今日、スウェーデンやフランス、カナダなどでは、移民だけでなく、性的マイノリティーに対する差別も禁止していく傾向にある。

「規制せず」のうそ


 日本のヘイトスピーチ規制に慎重な考えの背景には、日本の憲法学の主流が表現の自由を重んじる米国の憲法学にならっていることがある。多様な意見を戦わせ、問題がある言論も言論で対抗すべきだとする表現の自由市場の原理が米国では重視されている。

 では、明白な人種差別で、その差別をあおる言動は「意見」だろうか。人権を侵し、社会に分断を持ち込み、暴力犯罪からジェノサイド(民族大虐殺)にまで至るヘイトスピーチを表現の自由の乱用とみなすのが欧州をはじめとした国際標準。人種差別撤廃条約も犯罪として法規制することを締約国に課しており、100カ国以上がヘイトスピーチを禁止・処罰している。

 日本でも2016年6月、在日コリアン集住地区である川崎・桜本を標的にしたヘイトデモが横浜地裁川崎支部の仮処分決定によって禁じられた。決定書では「憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかで、私法上も権利の乱用といえる」「人格権侵害の事後の回復は困難で、妨害予防請求権も肯定される」と、ヘイトスピーチの害悪を踏まえた上で事前規制まで認めている。



神奈川県弁護士会人権賞の贈呈式後に開かれたシンポジウム
神奈川県弁護士会人権賞の贈呈式後に開かれたシンポジウム

 ヘイトスピーチが蔓延(まんえん)している米国が規制には消極的なのは、ナチスのような悲惨な経験がないためだ。漠然と思想、表現の自由市場を守っていればよいという風潮がある。

 だが、現実の米国は違う。人種的憎悪をあおる十字架焼却を罰する州法を「過度に広範」として違憲とした連邦最高裁判所判例もあるが、その後も州レベルでは規則が残り続けている。

 だから米国はヘイトスピーチを規制していないというのはうそ。さらに言えば、公民権法などの差別禁止法がさまざまなレベルで幅広くある。

 
 

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