
商業施設への植物の飾り付けなどを手掛ける「グリーンディスプレイ」(東京)に勤務していた男性=当時(24)=が帰宅途中に自損事故で亡くなったのは過重労働が原因だとして、遺族が同社に約1億円の損害賠償を求めた訴訟は8日、横浜地裁川崎支部(橋本英史裁判長)で和解が成立した。会社側は長時間労働による疲労と睡眠不足が事故原因と認め、約7600万円を支払う。
原告代理人の川岸卓哉弁護士によると、通勤や帰宅中の事故を過労が原因と企業側が因果関係を認めたのは画期的という。
和解条項には同社が追悼の意を表明し、経営者が謝罪する内容や、男性の事故後、職場で取り組んできた「過労」の再発防止策の継続が盛り込まれた。さらに、同社のホームページで防止策を公開すること、今回の和解案をすべて公表することなども含まれた。
和解勧告によると、男性は2014年4月24日午前9時10分ごろ、横浜市都筑区の仕事先から東京都八王子市の自宅へミニバイクで帰宅中、川崎市麻生区の県道で電柱に衝突し、死亡した。前日から約21時間以上働いており、事故前1カ月間の残業は過労死ラインに近い90時間以上にも及んだ。遺族は事故が長時間労働による過労が原因とした上で、会社側が安全配慮義務を怠ったと主張していた。
グリーンディスプレイは同日、「争点の詳細については解明されていない点が多く残っている」としつつ、「勧告を厳粛に受け止め、関係者の皆さまに心よりおわび申し上げる。信頼の回復に全力を尽くす所存です」などとコメントした。
遺族は15年4月に提訴。事故は通勤災害と認定され、労災保険が給付されている。
「息子に会いたい」
「今まで以上に、会いたい。一度でいいから。分かっていると思うけど、『一歩進んだよ』と伝えたい」。男性の母(61)は8日、川崎市内で会見し、和解成立の事実をかみしめながら、愛息へのあふれる思いを口にした。
2014年4月24日に事故は起きた。アルバイトから正社員として働き始めた直後、希望は一瞬で絶望に変わった。「なぜ、命を落とさないといけなかったのか。過労死だったことを明らかにしたい」。1年後の命日に提訴へ踏み切った。