最悪の事態こそ回避できたとはいえ、依然として楽観視はできまい。抜本的な再発防止策を講じない限り、再び同じ危機に直面することは想像に難くない。
県立がんセンターで放射線治療医が相次いで退職、重粒子線治療や放射線治療の継続が危ぶまれた問題で、県が退職理由をまとめた調査結果を公表し、新たな医師を確保することで、3月末までは現行の診療体制を続けられる見通しも示した。
重粒子線治療は「先進医療」としての要件を満たし、放射線治療も中断は避けられるという。
調査報告は、医師の退職理由について、県立病院機構と病院との「コミュニケーション不足」と指摘。不信感が広がる要因となった外部研修を巡る主張の対立は両論併記し、パワーハラスメントに絡む問題は調査対象外とした。具体的な改善策には踏み込まず、自主的な対応を見守るとされた機構からは反論が出た。
医師の確保に関しても、知事らが県内外の医療機関に派遣を要請した成果と強調する一方、肝心の4月以降の対応については「引き続き努力する」との見解にとどめた。
これではがん克服に望みをつなぐ患者の不安を解消したとは言い難い。内部対立でコミュニケーションが不足している医療機関に患者が足を運ぼうか。主治医がいつ変わるか分からない病院で、安心して治療を続けられる気持ちになろうか。
問題解決の一義的責任は機構にあるとはいえ、地方独立行政法人法の解釈だけで納得する県民はどれほどいよう。「県立」の施設である以上、県が当事者としての責任を果たすのが筋と考えるのではないか。
言うまでもなく、医療は患者と医師の信頼の上に成り立っている。しかし、多くの患者が転院などの負担を強いられ、少なからぬ県民が最先端治療施設の現状に失望したはずだ。余命宣告を受けながら闘病中のがん患者を、病院側の都合で、事実上追いやったのと同じである。がん診療の拠点病院としての信用が揺らいだと言わざるを得ない。
国内に5カ所しかない世界に誇る治療施設と自負するのであれば、一丸となって、明確な改善策を急ぎ示すべきだろう。大学と連携して医師の安定的な充足を図るなど、最先端で高度な医療を安心して受けられる病院に生まれ変わる。県民はその日を待ち望んでいる。