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広がるか自転車保険 県内初、相模原市が加入義務

社会 | 神奈川新聞 | 2018年1月26日(金) 12:42


事故現場前の門扉に立つ関田さん。亡くなった敬子さんは、指で示す方向から走行してきたマウンテンバイクと衝突したという=相模原市中央区上溝
事故現場前の門扉に立つ関田さん。亡くなった敬子さんは、指で示す方向から走行してきたマウンテンバイクと衝突したという=相模原市中央区上溝

 市民に自転車の損害賠償保険加入を義務付ける県内で初めての条例が昨年12月、相模原市で成立した。背景には、自転車が関係する事故が減らないことや、被害者が起こした民事訴訟で加害者に高額賠償を命じる判決が注目されたことがある。自転車事故で愛妻を失い、賠償もなく“泣き寝入り”を余儀なくされた遺族は「条例を第一歩に安全運転を徹底させてほしい」と願う。

 相模原市中央区で電子部品加工の会社を営む関田茂さん一家の人生が一変したのは、6年半前の朝だった。2011年7月、出勤のため近くのJR相模線番田駅に向かおうとした妻の敬子(ゆきこ)さん=当時(50)=は、自転車を押しながら歩いて自宅の門扉を出たとたん、右手から市道を走行してきたマウンテンバイクと衝突した。

 救急車のサイレンに気づいた関田さんが、事務所2階から外を見ると、道路に横たわる敬子さんの姿があった。頭から血を流し、見た瞬間に「もうだめかな、と思った」。呼び掛けにも応じず、市内の大学病院に搬送されるも、意識不明の重体。1週間後に帰らぬ人となった。

 3カ月後、県警はマウンテンバイクを運転していた当時30代の男性会社員を、重過失致死容疑で書類送検した。ただ、検察の捜査によって、男性は重過失致死よりも法定刑が軽い過失致死罪に問われることとなり、20万円の罰金刑が言い渡されたという。

 遺族の負担は、刑事手続きの終結後も続いた。男性が自転車事故に対する保険に未加入だったとみられるためだ。

 敬子さんの入院費用は約130万円。せめて加害者が立て替えてほしいと、死亡事故を起こした慰謝料とともに入院費分の支払いを求める民事調停を申し立てたが、男性は出頭しなかった。調停は不調となり、残されたのは、民事訴訟で責任を問うかどうか。ただ、相手側に支払い能力がなければ、勝訴判決を得ても賠償金を受け取れるか分からない。

 また、破産法では破産をしても免責が認められないのは、故意や「重大な過失」によって人の生命や身体を害する行為と規定。弁護士に相談したが、刑事手続きで過失致死罪と認定されたのであれば「重大な過失」には該当せず、男性は破産すれば免責となる可能性を指摘された。

 「被害者が訴訟費用を払って裁判を起こしても、破産されればそこまで。制裁を加える意味で相手を破産させるという考えもあるかもしれないが、そんなことをしても仕方がないと思った」。重過失致死罪に問えなかったことに不満はあったが、民事訴訟の提起は諦めた。今日までマウンテンバイクの男性から、事故の賠償はないという。

 事故当時、初孫が生まれて3カ月だった関田さん夫婦。「一番かわいい時期。妻も成長を楽しみにしていた」。2人に増えた孫は慕ってくれるが、その輪の中に敬子さんはいない。「年金をもらえるようになったら仕事に区切りを付けて、夫婦でのんびり旅行にでも行こうかと話していたのに」。今も悔しさが晴れない。

 関田さんは、相模原市の条例を「国が動かない中で、市が条例を作ったのは良かった」と話す。条例では保険に加入しなくても罰則はないため、本音を言えば、罰則を設けて加入を促してもらいたかった。「加害者になる認識がないのか、自転車は自分本位の運転が目立つ。運転者の意識を変えてほしい」と、条例で規定された家庭や学校での交通安全教育の推進に期待を寄せる。

 国に対しても要望がある。自動車であれば罰則付きで義務付けられている自賠責保険が、自転車には義務付ける法律がないため、事故が起きると被害者が“泣き寝入り”を余儀なくされる場合がある。無灯火や飲酒運転など禁止規定はあるが、違反をしても自動車に比べて摘発事例は限られる。こうした点が、関田さんには「自転車はルールが穴だらけ」に映る。

 求めるのは、自転車も加害者となり得ることが認識され、「交通弱者」がきちんと保護される社会だ。「事故はどこでも起き得る。本来は国全体で対策を進めてほしい」

 
 

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