
♪~ああ憧れのハワイ航路
男性コーラスに合わせた女性3人組のフラダンスに笑い声と笑顔が広がった。
昨年12月半ば、川崎市宮前区野川にある市のいこいの家。ボランティアグループ「すずの会」が年内最後の「ミニデイ」をクリスマス会として開いた。
月2回開くミニデイは、認知症の妻を介護する男性の「妻と一緒に行ける場はありますか?」との声に応えて始めた。要介護の在宅高齢者のほか、入居施設から職員と訪れる人もいる。参加費は昼食代500円。要介護になっても、介護者になっても“地域とつながれる場”となっている。
この日も利用者とボランティアの計約70人が5時間、歌やおしゃべりを楽しんだ。高齢の女性は「来年も元気で頑張れます」と声を弾ませて帰った。
同会代表の鈴木恵子さん(70)は「少し体調がすぐれない人もここで過ごすと、元気になって帰っていく。介護予防効果は抜群ですよ」とほほ笑む。
「困ったときは鈴を鳴らして知らせて」との思いを込めたその名の通り、同会は野川地区で20年余、介護保険や医療のはざまにあるニーズをすくい上げてきた。
ミニデイのほか、見守りが必要な人を知る地域マップづくり▽孤立しがちな高齢者や障害者らと近所が個人宅でお茶会をするダイヤモンドクラブ▽専門職を含む約30団体が月1回集まり、困難なケースの解決策を探るネットワーク会議-など、地域をつなぐ活動は10種類以上に上る。
それらを支えるのは主婦を中心としたボランティア約70人。介護福祉士や社会福祉士、ヘルパー1・2級などの有資格者も多い。
2014年春からは戸建て住宅を借り、初めての拠点「すずの家(や)」も開設した。週2回の午前9時~午後4時、10~15人の要介護の高齢者がくつろげる居場所だ。食事代500円。ボランティア35人(1日当たり6人)が運営し、入浴、送迎も受けられる。市内唯一の住民主体の活動モデル事業として市の委託費も運営に充てている。
鈴木さんは「単身高齢者や地方から呼び寄せられた高齢の親が地域に増えてきて、頻繁に関われる場が必要と思った」と説明する。
会の発足は鈴木さんの10年間にわたる母親の介護体験がきっかけだった。
1986年1月、母親=当時(60)=がくも膜下出血で倒れ、重度の意識障害を伴い寝たきりとなった。鈴木さんが37歳の時だ。小学生2人を育て夫は単身赴任中。家にこもる在宅介護が始まった。
「友人とのお茶も映画鑑賞も旅行も10年間は一切なし。花の40代はなかった」。そんな様子を見かねて手を差し伸べたのが、PTA仲間だった。子どもの学校の用事などで外出せざるを得ない少しの時間帯に留守番に来て、母親を見て、体位交換したりしてくれた。
そのPTA仲間5人と95年につくったのが同会だ。「私が助けられたので、次はご近所の応援団をやりたいと思った。長い介護経験がなければ、その必要性にも気付かなかったと思う」
同会には毎月3~4団体、全国の自治体や厚生労働省の職員らが視察に来る。超高齢社会で求められる住民主体の地域ケアグループづくりの成功例として評価されているからだ。
鈴木さんは言う。「私たちはご近所さんとして困りごとに関わる。お金のためでも仕事でもないので、利用者もボランティアも楽しむことができる。楽しいから続く」
ボランティアには親の介護で同会に助けられた経験を持つメンバーも。何かあったときに再び会に頼れる安心感も動機となるという。
楽しさと安心感-。その好循環がご近所支え合いの秘訣(ひけつ)かもしれない。
