重度の知的障害がある尾野一矢さん(46)がやまゆり園に入所したのは1996年。23歳のときだった。中学1年のときに障害児施設に入所して以来、35年ほどにわたって施設で暮らしてきた。両親共働きで世話をする余裕はなく、他に選択肢はなかった。
「施設で穏やかに過ごせれば、それでいいのではないか」。父の剛志さん(76)は2015年度まで17年にわたって家族会会長を務め、園が一矢さんの「ついのすみか」になると信じて疑わなかった。

選択肢
事件後、施設の再建を巡って論争になった。生活が管理されがちな大規模施設ではなく、自由度の高い少人数のグループホーム(GH)などで暮らす「地域移行」を求める声が障害者や支援者から上がった。だが、剛志さんは「重度知的障害者を受け入れるGHはどれだけあるか」と反論、大規模施設としての再建を訴え続けた。
転機は、映画監督の宍戸大裕さん(37)との出会いだった。