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やまゆり園 事件考
被告はいま(3) ニーチェに共感 憧れた超人

社会 | 神奈川新聞 | 2020年1月4日(土) 05:00

 立川拘置所(東京都)の居室で昨春、被告の男(29)は哲学書の漫画版を開き、うなずいていた。「神は死んだ」の一節で知られるニ-チェの『ツァラトゥストラはかく語りき』。神の死後、人間が志向すべき存在は何か。「超人」であると説いた叙事詩的古典だ。神奈川県立障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で入所者19人を殺害したとして起訴された植松聖だった。


植松聖被告の手記。「私は『超人』に強い憧れをもっております」

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 拘置所の本棚から、「たまたま手に取った」という。ニ-チェの存在は聞きかじっていたが、超人思想は知らなかった。≪君たちは人間を克服するために、何をしたか≫。勇ましく、高らかに「生」をうたうニ-チェに触れた。「美しくある、格好よくあることは、すごく大切だと学びました」と植松は振り返る。古(いにしえ)の哲人が自説を代弁している、と高揚したそうだ。

 ≪私は「超人」に強い憧れをもっております≫。植松はこの漫画本を読む数カ月前、そうつづった手記を記者に寄せていた。「超人」への敬愛は、社会人になって芽生えたという。それは、才能と努力を兼ね備えた存在であると説明する。米大統領のトランプや野球選手の大谷翔平を例示した。

 ニ-チェの明快な至言を選抜した自己啓発本がベストセラ-になって久しい。この漫画本も大幅に戯画化されていた。ニ-チェは「毒にもなる」と岐阜大教授の竹内章郎(社会哲学)は警告する。「高く羽ばたくためには、踏み台を強く踏み込まなければいけない。超人への傾倒は、弱者の強烈な否定と裏腹な関係にある」。ニ-チェはかたや、弱者を「末人(まつじん)」「畜群(ちくぐん)」と名付けて蔑(さげす)んだ。植松は重度障害者を「心失者(しんしつしゃ)」と呼ぶ。

 立川で精神鑑定を終え、横浜拘置支所(横浜市)に戻った植松は今春、青ばんだ眉を両手で隠し、恥じらいながら面会の記者を迎えた。「ちょっと失敗しちゃって」。眉毛やひげを指ではさみ、手探りで1本ずつ抜いているという。拘置所に毛抜きを持ち込めないからだ。時折、流血する。電気ひげそりは購入できるが、「邪悪」な体毛は根絶しなければいけない対象らしい。「毛嫌い、とはよく言ったものです」と笑った。

 事件1年前、10万円で全身脱毛を試みた。「毛根から消滅させるんです。とどめを刺すんです」。二重(ふたえ)と鼻筋の美容整形にも、70万円をつぎ込んでいる。「美しさには、それだけの価値がある。それで超人になれるんです。パ-フェクトヒュ-マンです」

 不浄なるは、「男はひげ、女ならデブ」。さらに忌み嫌ったのは、「糞尿(ふんにょう)」だった。ある日、気色ばんで記者に反問してみせた。「垂れ流してまで、生きたいと思わないですよね」。やまゆり園に在職中、粗相する入所者に憎悪を募らせていった。

 高潔なニ-チェはこう、うたう。≪われわれは一切の生の屑(くず)や廃棄物に同情してはならない、──上昇する生にとって、たんなる妨害であり、害毒であり、裏切りであり、隠れた敵であるようなもの(中略)は滅ぼされるべきである……。深い、深い意味で言うなら、「あなたは殺してはならない」は非道徳的である≫(氷上英廣訳「遺された断想」『ニ-チェ全集第12巻』白水社、P120)


 「ヒトラ-の思想が降りてきた」と植松が措置入院先で発言していたのが明らかになると、メディアは安楽死政策と称したナチスによる障害者虐殺との相関を指摘した。東京大大学院教授の市野川容孝(医療社会学)はしかし、「ニ-チェこそ近い」とみなす。実際、植松は取材に「ヒトラ-とは似て非なるもの」と、その影響を否定した。

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