【ジュネーブ共同】約5年ぶりとなった国連人権理事会の対日人権審査では、特定秘密保護法などで萎縮しているといわれる日本の「報道の自由」を巡る問題が取り上げられた。作業部会は16日、日本に対して218項目からなる勧告を採択し、メディアの独立性を一層確保するよう求めた米国などの主張を盛り込んだ。
岡村善文・政府代表は勧告について「一つ一つ精査する」と述べる一方、従軍慰安婦や報道の自由の問題については個人的には何ら恥じる状況ではないとした。
人権理は来年2~3月の会合で日本の判断を反映した最終勧告を採択する予定だが、法的拘束力はない。
14日の作業部会の会合で発言した106カ国・地域のうち、報道の自由に関して触れたのは少なくとも4カ国。言論・表現の自由は、民主主義国家が保護すべき重要な人権とされ、国連の場で懸念が示されることは「あまり名誉なことではない」(国連外交筋)。
日本の報道の自由を巡る状況は揺らぎをみせている。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の世界各国の報道自由度ランキングで日本は2010年の11位から毎年順位を下げ、12年に22位、14年には59位、16、17年には72位まで下がった。アジアでは韓国(63位)やモンゴル(69位)より下のレベルだ。
11年の東京電力福島第1原発事故の対応が契機となった。情報公開の不十分さや、記者クラブ制度の閉鎖性が海外で「真相を隠しているのでは」との疑念を呼んだ。
言論と表現の自由に関する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏は日本における言論・表現の自由の現状を調べるため16年春に訪日。日本政府が放送法を盾にテレビ局に圧力をかけていると批判した。日本政府は反論したが、対日審査で日本メディアの問題が取り上げられるベースとなった。
岡村氏は対日審査について「日本の素晴らしい憲法の下で自由と人権が保障されていることを国際社会に示す良い機会になった」と強調。一方で、日本人が認識しにくい労働環境や女性の問題などで他国の見方を聞くことができたとした。
朝鮮学校の無償化除外 「平等な扱いを」
【時代の正体取材班=石橋 学】 218項目にわたる日本政府への勧告には、高校無償化制度の対象から唯一除外されている朝鮮学校に制度を適用するよう求めるものも盛り込まれた。
16日に採択された勧告は「すべての学校に無償化制度を適用せよ」「社会権規約委員会と人種差別撤廃委員会の勧告に従い、マイノリティーの子どもたちの教育権を差別なく確保せよ」「関連条約機構の勧告に従い、朝鮮学校への平等な扱いを確保せよ」などと求める。朝鮮学校の排除を差別と批判し、是正を求めた2013、14年の国連社会権規約委員会、人種差別撤廃委員会の勧告を無視する日本政府への非難を含めた内容となっている。
14日の日本審査会合ではポルトガル、パレスチナ、オーストリア、北朝鮮が制度適用や教育権確保に言及。これに対し日本政府は「法令の趣旨にのっとった判断。民族差別や教育権の侵害にはあたらない」と答弁していた。
人権NGOが参加した10月の事前会合で、朝鮮学校が置かれた現状を各国に説明した在日本朝鮮人人権協会の朴金(パクキム)優綺(ウギ)さんは「すべての子どもの学びを支援する無償化法の趣旨に反し、政治的理由で朝鮮学校を排除しているのは国際社会の目からも明らか。これまでの勧告に従っていないことを踏まえた勧告を重く受け止め、速やかに制度を適用すべきだ」と話している。