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ヘイトスピーチ考
時代の正体〈552〉加速するネットの被害 人種差別撤廃基本法(上)

社会 | 神奈川新聞 | 2017年11月11日(土) 21:21

国会議員も参加した院内集会=2日、参院議員会館
国会議員も参加した院内集会=2日、参院議員会館

【時代の正体取材班=石橋 学】差別を禁止し、根絶のため基本方針の策定から国や自治体の責務までを包括的に定める人種差別撤廃基本法の制定を求める院内集会が2日、参院議員会館で開かれた。ヘイトスピーチ解消法施行1年半を前に、法律家や研究者らでつくる外国人人権法連絡会などが主催した。法務省が3月に発表した外国人住民調査報告書に基づく報告から、なぜいま基本法なのかを考える。

 日本映画大学教員(社会学)のハン・トンヒョンさんは、インターネット上のヘイトスピーチによる「実害」の存在を浮かび上がらせた。

 調査では、インターネットを利用している人に差別的書き込みに関する経験を聞いている。回答した3396人のうち、「1 日本に住む外国人を排除するなどの差別的記事、書き込みを見た」は1411人で41・5%、「2 上記のような記事、書き込みが目に入るのが嫌で、そのようなインターネットサイトの利用を控えた」は674人で19・8%、「3 自分のインターネット上の投稿に、差別的なコメントを付けられた」は145人で4・3%、「4 差別を受けるかもしれないので、インターネット上に自分のプロフィールを掲載するときも、国籍、民族は明らかにしなかった」は503人で14・8%だった。

 ハンさんは言う。

 「特に重要なのは2と4の回答。利用を控えたり利用方法を変えるという、外国人でなければ不要な対応を取らざるを得ない状況がある。つまり実害が生じている」
 

定着しているほど


 ハンさんは回答者の内訳にも着目する。実害を受けている被害者は、日本生まれや日本への定着度の高い、旧植民地にルーツを持つ人々の割合が高くなっている。「歴史的に関係が深く、日本に定着しているほど被害者になっている」

 例えば、「4 差別を受けるかもしれないので、インターネット上に自分のプロフィールを掲載するときも、国籍、民族は明らかにしなかった」は全体では14・8%だが、国籍別に見ると、中国17・5%、韓国27・4%、朝鮮52・2%となる。在留資格別では、特別永住者29・5%、日本での在留期間も「生まれてからずっと」が39・0%に上っている。

 「日本語も堪能でネットを使いこなし、日本人と同じように社会生活を送っているにもかかわらず、また、そうであるからこそ同じように使うことができない。明らかな不利益が存在している」

 ハンさんは続ける。



 「詳しく言えば、沈黙を強いられ、ネットでの表現の自由が奪われている。マイノリティー(社会的少数者・弱者)にとってとりわけ大事なコミュニティーやネットワークの形成ができなくなっている」

 ネットを通じた出会いや社会参加の回路が断たれる。表現の自由が剥奪されるだけでなく、生き方そのものがゆがめられている。
 

変わったフェーズ


 在日外国人を排斥したり脅迫、侮蔑したりするヘイトスピーチを「許されない」とし、国や地方公共団体に解消に向けた取り組みを求める解消法だが、禁止規定がなく、その限界は当初から指摘されてきた。インターネット対策も付帯決議で求めているが、ほとんど手つかずのままだ。

 差別主義者らによりツイッターで過去の言動や職場の情報などが拡散される攻撃にさらされるハンさんだが、「フェーズ(局面)は変わった」と警鐘を鳴らす。

 「路上やネット上で『死ね』『殺せ』と叫ぶだけでなく、ネット上の扇動によって実際の行動が促されるという質的変化が起きている」

 テンプレート(ひな形)化された個人情報がネットで不特定多数に拡散され、脅迫の電話や手紙が送りつけられるといった被害が生じ、日常生活が脅かされている人がいる。

 その扇動効果の大きさを物語る象徴的な例として上げるのが、2015年のデマ騒動だ。在留外国人管理制度の変更で7月9日以降、在日コリアンは在留資格を失って不法滞在になり、強制送還されるというデマがツイッターを中心にネット上で拡散された。

 「恐ろしいのは、通報の呼び掛けがなされ、法務省へ連絡した人がたくさんいたということだ」

 通報すれば強制送還にすることができる-。デマに基づくテンプレートが示され、日ごろネットに「日本から出て行け」「朝鮮半島に帰れ」と書き込んでいる人が、そのゆがんだ排斥の願望がかなうと信じる手段を得て、実行に走る。

 ヘイトスピーチを放置すれば、暴力行為にエスカレートし、果てはジェノサイド(民族虐殺)に行き着く。在日コリアンにとって1923年の関東大震災における朝鮮人虐殺は過去に終わった話ではない。

 「具体的行動を起こしているという意味では、実際に危害を加えるヘイトクライム(憎悪犯罪)に接近している。『死ね』『殺せ』というヘイトスピーチも怖いが、扇動によって行動が促され、実行に移されている状況が恐ろしい」


 

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