日本国内には、英国の音楽グループ「ザ・ビートルズ」のコピーバンドが100以上存在する。中でも、音にこだわるトリビュートバンド「BEAT★RUSH(ビート★ラッシュ)」の演奏は本物が目の前に現れたようだ。横浜のライブハウスをホームグラウンドとし、全国で年間約30本のライブを行う4人は出身も年代も違うが、「出会ったとき同じにおいがした」と口をそろえる。互いにビートルズ愛の深さをかぎ取った。
来日公演から50年を迎えたビートルズが誕生した港町リバプールでは、1983年から毎年8月末、「インターナショナル・ビートル・ウィーク」が行われている。本家の音楽に魅了された世界中のトリビュートバンドが町中のライブハウスや路上などで演奏し、各国から例年50万人以上のファンが訪れる一大イベントだ。
リンゴ・スター一筋を貫いてきたドラムのあんちゃん・☆(50)は、ジョン・レノン役のLenny#(52)らと一緒につくった「THE ASPREY」で、2008年と09年に祭典に出場。スティックを横に振るなど細部まで動きを再現した演奏は、08年に世界3位に選ばれた玄人はだしの実力だ。
12年にジョージ・ハリスンのパートを務めるMull George(40)、14年にポール・マッカートニーを担当するマサキ(37)が加わり、いまのBEAT★RUSHが生まれた。
ホームグラウンドに立つ
ホームグラウンドのライブハウス「横浜ブルー・ジェイ」(横浜市西区)に立った今夏、店内は小さな子どもから大人まで観客であふれかえっていた。
ベージュのジャケットと黒ズボン。そろいの衣装に身を包んだ4人を拍手が包んだ。「I Wanna Be Your Man」で、マサキとLenny#が、往年のジョンとポールのようにほおを寄せ合い歌い始めると、女性客から黄色い歓声が飛んだ。
3部構成で行われたこの日は、ビートルズの曲を中心に、ポールが当時の妻リンダらと結成したバンド「Wings」の楽曲など幅広く演奏。七夕に生まれたリンゴを祝った2部では、特別発注した“リンゴのゴムマスク”をかぶって、あんちゃん・☆が本物さながらにたたく見せ場もあった。
指笛を鳴らし盛り上げた男性客は「ここは日本のリバプールだよ」と満足そうに笑った。
同じ気持ちで臨む
ジョン、ポール、リンゴ、ジョージが大事にしていたのは共通意思だった。BEAT★RUSHの4人も「ビートルズ愛を深めることができる仲間と音を奏でたい」と、同じ気持ちでステージに臨む。
中でも、プロミュージシャンとして活動するマサキは「僕は職業がポール・マッカートニー」と豪語する。
米国ニューヨークの名門コンサートホール「カーネギー・ホール」で演奏した父を持つ音楽一家で育ったが、子どもの頃は野球少年だった。ところが、中学生の時に耳にした「Let It Be」に仰天した。電気が走るような感動を覚え、リードボーカルを務めていた「ポールのようになりたい!」と開眼。いまも現役の父とは、ライバルでもある。
「ステージに立った瞬間にポールになる。僕は左利きではないので、こだわっているのは歌。ポールの七色の声をしっかり再現して伝えたい。僕が感動したことを、聴いてくれる人と共有したい」