
2011年3月に起きた東京電力福島第1原発事故以降のことだ。横須賀市内での平和イベントには、ベビーカーを押しながら参加する若い母親の姿が目立つようになった。
電気事業者だけでなく、国やメディアなども喧伝した原発の「安全神話」が崩壊。何事にも絶対はないという意識は、自分たちの街の海に長く滞在する米原子力艦船への向き合い方も変えようとしていた。
それは、原子力艦の災害対策マニュアルの見直しにもつながる。
国は15、16年の2度の改訂で、避難開始を判断する放射線量の基準を「毎時100マイクロシーベルト以上」から、原発事故の対策指針に合わせて「5マイクロシーベルト以上」に厳格化。事故発生の通報主体を米国政府と明確に位置付けるなどした。
市もまた、原子力艦船からの放射性物質漏れを想定した日米合同訓練を米海軍横須賀基地(同市)などで実施している。甲状腺被ばくを防ぐための安定ヨウ素剤については、19年9月末現在で人口を上回る75万5千錠備蓄している。
ただ、米海軍は原子炉の遮蔽(しゃへい)性の高さや、乗組員の練度などから「事故は起こらない」との姿勢を貫く。
原子力艦船の安全性を説明するために作成したファクトシート(説明文書)では、「50年以上にわたり原子炉事故や放射能の放出もなく、原子力艦船を安全に運航してきた」と実績を強調。放射性物質が艦外に放出される事故の可能性に関しても「極めて低い」として想定していない。
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一方、1966年の原子力艦船の横須賀初寄港から通算千回に達するまでのこの間、日米の軍事的な結び付きはかつてないほど強まっているとされる。
集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法が15年に成立。平時から米軍の艦船や航空機を守る「武器等防護」が可能になるなど、自衛隊の任務は拡大の一途をたどっている。
同盟関係の強固さも盛んにアピールされる。
同基地で15年10月、安倍晋三が現職の首相として初めて米空母に乗り、原子力空母ロナルド・レーガンの配備を歓迎した。今年5月には、米大統領のトランプとそろって海上自衛隊横須賀基地(横須賀市)で、護衛艦「かが」を視察。米大統領が自衛隊艦船に乗艦した記録はなく、初めてとみられる。
R・レーガンの報道関係者向けの公開があった同8月。「チームとしての相互運用性を高める訓練。安全保障上の問題に対応する能力が向上している」。当時の第5空母打撃群司令官の少将カール・トーマスは、6~8月の海上自衛隊の護衛艦との合同訓練について胸を張ってこう説明した。
しかし、日米安保上で日本が求められる役割の広がりは、原子力艦船そのもののリスクだけでなく、米国の戦争に巻き込まれる危険性を高める。
中国が対艦弾道ミサイルなどを配備し、米軍の展開を阻む「接近阻止・領域拒否」能力を強化する中、海洋安全保障に詳しい明海大准教授の小谷哲男は「第7艦隊の安全は、これまでほど強固とは言えない」と指摘。「そういう意味では横須賀基地の脆弱(ぜいじゃく)性は相対的に高まっている」とも語る。
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節目の原子力艦船寄港千回に到達した2日夜、原子力空母の母港化などに反対する市民団体のメンバーらは同基地ゲート前で抗議運動を展開した。横断幕やボードを手に、「原子力空母の母港撤回を」などと声を張り上げ、当直将校に連名の抗議文を提出した。