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記者の視点 デジタル編集委員 石橋学
時代の正体〈529〉朝鮮学校無償化訴訟判決を問う(中)差別のまなざしあらわに

社会 | 神奈川新聞 | 2017年10月4日(水) 15:37

判決言い渡し直後、東京地裁前で抗議の声を上げる朝鮮大学校の学生ら=9月13日
判決言い渡し直後、東京地裁前で抗議の声を上げる朝鮮大学校の学生ら=9月13日

【時代の正体取材班=石橋 学】異例かつ無理筋の要求に危機感が色濃くにじんでいた。被告の国が弁論再開を求めて東京地裁に申し立てたのは9月1日のことだった。弁論は5月に終結しており、判決言い渡しまで2週間を切っている。理由も不可解。国が全面敗訴した7月の大阪地裁判決について「判断に多くの誤りがあり、東京地裁で新たな証拠を追加して主張する」。朝鮮学校を高校無償化の対象から外した是非を巡る同種の訴訟とはいえ、大阪地裁判決についての主張は控訴審で行うべきものだ。提出予定の証拠も、すでに記事を証拠提出している産経新聞の部数を示す資料といった「新たな証拠」とは呼べぬものだった。

 国は7月19日の広島地裁では勝訴判決を得たものの、9日後の大阪地裁では一転、全面敗訴。愛知、福岡と続く判決への影響も考え、「連敗」は避けたい国の司法に対するメッセージであったか。

 果たして東京地裁が下した判決は、大阪とは対極の論証によって正反対の結論を導き出した。結果、文部科学相の裁量を認めた広島判決に輪を掛けて国の主張に寄りかかった内容になっていた。
 

■明言


 大阪判決は、朝鮮学校の不指定は拉致問題という政治的、外交的理由によるもので、教育の機会均等とは無関係な理由で判断するのは根拠法の趣旨に反し、不指定処分は違法で無効と断じた。

 民主党政権時代の2010年4月に始まった無償化制度は外国人を含むすべての子どもの学ぶ権利を保障するためのものだ。指定のもととなる基準は教育上の観点からみた校舎の広さ、教員の数といった客観的なもので、政治的、外交的判断を持ち込めばただちに無償化法に違反することになる。

 大阪地裁で認定された「朝鮮学校の不指定は政治的、外交的理由によるもの」という事実は東京訴訟の弁護団がとりわけ争点を絞って立証に努めてきたものだった。

 政治的、外交的理由であることは当時の下村博文文科相自身が明言していたことだった。12年12月、安倍政権発足2日後の閣僚懇談会後の記者会見で述べた。

 「拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあることから現時点での指定には国民の理解が得られない。不指定の方向で手続きを進めたいと提案したところ、総理からもその方向でしっかり進めてほしいと指示があった。このため、野党時代に自民党の議員立法で提出した、朝鮮学校の指定の根拠を削除する法改正案と同趣旨の改正を省令改正により行うこととし、本日からパブリックコメントを実施する」

 朝鮮学校の不指定処分の理由として拉致問題が明確に語られ、指定基準を満たす朝鮮学校を外すため根拠規定自体を削除するという省令改正の実施が決まり、手続きが始まったと説明している。

 そもそも朝鮮学校に対して政治外交上の問題を持ち出す不条理は民主党政権下にあってもまかり通っていた。制度開始の目前、当時の中井洽拉致問題担当相が物言いを付け、朝鮮学校への適用は留保された。審査会が設けられるも、10年11月に北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)砲撃を受け審査は凍結された。

 迎えた政権交代。野党時代に自ら法案を提出しているように、本来法改正の手続きが必要なのに政権に返り咲いた途端、省令改正で済ませるという逸脱が安倍政権の本質たる傲慢(ごうまん)さ、暴走ぶりを映し出す。再開された審査会の結論を待つことなく、北朝鮮への強硬姿勢をより強く示し、植民地支配の責任から目を背けたい政権が、その座に戻って真っ先にやるべき「仕事」として朝鮮学校無償化除外は選ばれたのである。

 だが、判決はなぜだろう、「発言内容を素直に見れば、不指定処分等の個別具体的な処分やその理由を述べたものではないことが明らか」と結論付けてしまう。なぜ「明らか」なのかを説明することなく、記された「素直に見れば」の不自然かつ不可解さが際立つ。証人尋問に立った文科省官僚は何度も答えに窮しながら、下村発言について「国民目線で、分かりやすい言葉で発信したもの」という、やはり不自然で不可解な証言しかできなかったというのに、である。

 
 

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