台風15号が首都圏を直撃した際、東京湾に停泊していた345隻のうち、3分の1にあたる107隻が錨(いかり)を降ろしたまま強風で流される「走錨(そうびょう)」した可能性があることが、第3管区海上保安本部(横浜)の調べで分かった。対応が適切に行われなかったため漂流し、衝突などの海難事故が横浜港など県内港湾で4件発生。3管は当時の船舶の動静を分析し、今後の安全確保に役立てる。
台風など海上で強風が予想される場合、東京湾では大型船が湾外に避難するケースはあるが、多くの船舶は湾内の決められた海域で錨を下ろして避難する「錨泊(びょうはく)」を行っている。
3管の東京湾海上交通センターは、500トン以上の船舶が搭載している「船舶自動識別装置」(AIS)やレーダーで錨泊中の船舶の位置を把握。船の全長や水深といった数値からモニター上に仮想の円を描き、船が円外に出たら走錨の可能性があるとして注意喚起や勧告を行っている。走錨の注意喚起は、台風15号が「非常に強い台風」に勢力が強まった8日夜から9日未明にかけて相次いだ。
3管によると、湾内では走錨による衝突や接触が4件発生し、いずれも県内の港湾だった。横浜港では南本牧ふ頭につながる「南本牧はま道路」(横浜市中区)の橋に貨物船が接触したほか、本牧海づり施設(同区)では桟橋にケミカルタンカーが接触。横須賀港では貨物船と実習船が、川崎沖では貨物船同士が衝突したとみて調べている。
台風などの荒天時は、湾内の狭い海域に錨泊する船舶が密集し、混み合う傾向がある。強風時は錨の鎖を長く出すほど抵抗が増すため走錨を防ぐことができるが、内航船の船長は「船間距離が過密になると、周囲の船舶との関係から必要量の鎖を伸ばすのが難しい」と説明。十分な長さの鎖を使用できずに走錨する船舶がある可能性を指摘する。