
川崎市議会第4回定例会は11日、本会議を開き、自民、共産両党が代表質問で差別の根絶に向け市が成立を目指す「差別のない人権尊重のまちづくり条例(仮称)」の素案について市側をただした。素案ではヘイトスピーチを繰り返した者への罰則が設けられており、成立すれば差別的言動を刑事規制する全国初の条例となる。条例の目的や表現の自由との関係を問われた市は、平穏な市民生活が脅かされている深刻な実情から罰則の必要性を説明した。
市内では在日コリアンの迫害を呼び掛けるヘイトデモが2013年から14回繰り返されてきた。今年8月にも極右政治団体「日本第一党」が6回目の街宣活動をJR川崎駅前で実施。ナチスの「かぎ十字」旗をデモで掲げたことで知られる差別・排外主義団体代表者も参加し、「在日のならず者集団をまちから一掃しなければならない」などとヘイトスピーチを行った。
自民の斎藤伸志氏は「多くの人権施策と条例を展開してきたにもかかわらずへイトスピーチが市内で大規模で行われ、他都市に先駆けて条例を制定する意義は理解に難しくない」との立場を表明。その上で、条例の目的や既存の法律などとの整合性などについて質問した。
向坂光浩市民文化局長は条例の目的について「人権尊重のまちづくりを総合的、計画的に推進し、共に生きる社会の実現のために差別を根絶していくもの」と説明。ヘイトデモ主催者に対して横浜地裁川崎支部がヘイトデモ禁止の仮処分決定を出し、法務省も人権侵害をやめるよう勧告していることを踏まえ、「表現の自由も無制限ではない。条例が規制する行為は違法性があり、制限は正当化される」との見解を示した。
理念法であるヘイトスピーチ解消法にはない罰則を条例で設けることの是非については、最高裁判例を例示しながら「解消法では自治体は地域の実情に応じた施策を講じると定められており、ヘイトデモが行われた実情から罰則は許容されると考える」と説明。市内のヘイトデモが解消法の立法事実にもなった重大な人権侵害であったことを改めて強調し、「今なお同様の行為が再現されかねない地域の事情がある」と、従来の教育や啓発から一歩踏み込んだ対応として罰則規定を設ける必要性を説いた。
共産の大庭裕子氏は「ヘイトスピーチは断じて許されない。市民の粘り強い運動、要請に応え、条例を提案したことは市民運動の成果であり、歓迎する」との見解を示した上で、処罰対象となる差別的言動の定義のあいまいさを指摘するなどした。
向坂局長は「パブリックコメントで寄せられた意見を踏まえ、定義の明確化が図られるよう検討する」と明言。外国人に対するヘイトスピーチだけ罰則で規制することが既存の法律や条例と整合性を欠くという指摘については「この条例は既存の法や条例の適用を阻害するものではなく、懸念される状況にはないと判断している」と答弁した。
◆川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例 市が6月に公表した素案によると、人種や性的指向、障害などを理由にしたあらゆる差別的取り扱いを禁じ、外国にルーツのある人への差別的言動に最高50万円の罰金を科す条例。処罰対象のヘイトスピーチを場所や類型、方法から絞り込み、勧告、命令に違反した場合、市が刑事告訴する。行政の恣意(しい)的な判断と表現の自由の過度な規制を防ぐため、有識者の付属機関や検察庁、裁判所の判断を経る仕組みも取り入れている。市が実施したパブリックコメントには約1万8千通が寄せられ、賛意を示すものが多数を占めた。市は12月議会で条例案を提出し、同月と2020年4月に一部を施行した上、同7月の全面施行を目指している。