
敗戦後の占領期から現在まで続く県内の米兵らによる女性への性犯罪を記録しようと、県内の女性有志らがリストを作成した。県警察史や書籍、新聞記事などを調べてまとめたといい、特に多発した米軍中心の連合国軍による占領開始直後から近年まで、被害は絶えない。メンバーの一人、大木清子さん=横浜市港北区=は「神奈川は被害が多いが知られておらず、不起訴も多い」と指摘。泣き寝入りを招く日米地位協定の改定に向けた動きが出てくることも期待する。
まとめたのは、県内の女性史の掘り起こしを行うグループ「港の会」。日本基督教団神奈川教区性差別問題特別委員会の有志メンバーで構成される。敗戦直後に県内にも設置された占領軍向けの「慰安所」や戦後の女性たちの歴史を学ぼうと、2018年7月から活動を始めた。
リストづくりは、沖縄の市民団体「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」が作成した沖縄での同様のリストを手本にした。神奈川の実態を調べるため、同グループは図書館に通って資料を探したほか、県基地対策課に情報公開請求を行い、表にまとめた。
リストは1945年8月から2018年12月まで。情報公開を請求しても過去をさかのぼることには限界があり、資料が見つからない時期があるなど、全ての時期を同じ水準で掲載はできていない。だが16年11月まで、ほぼ毎年のように女性を対象にした犯罪が発生している。
これによると、敗戦の年である1945年は12月末までに50件の強姦(ごうかん)や強姦未遂が発生するなど、性犯罪が多発している。また、最近では2010年から15年までの6年間でも、不起訴を含め女性が被害に遭う事件が11件発生。付きまとい、暴行のほか、痴漢や強姦未遂もあった。
調査の過程では、驚くことも多かったという。例えば02年に横須賀市で米兵に強姦されたとして大きく報道されたオーストラリア出身の女性の事件は、県基地対策課に記録はなかった。警察で門前払いをされたり、在日外国人が被害者となったりした事件などは掲載されず、行政の支援も受けられないでいるという。
また08年から12年までの5年間で、神奈川での米兵による事件の起訴はわずか5%にとどまり、性犯罪はすべて不起訴だったとの新聞報道があった。在日米軍施設の7割が集中する沖縄では同時期の起訴は20%を超えたといい、「神奈川では『重要な事件以外、日本は裁判権を行使しない』という地位協定の密約がずっと踏襲されている。基地問題を巡る市民運動が必ずしも盛んではないこともあるのだろう。実態を知り、地位協定を改定しなければならないという動きになれば」と大木さんは力を込める。
まとめた印象を大木さんはこう語る。「県内で米兵らによる性犯罪がいかに多いか知られていない。被害を受け、苦しみを抱えたまま生きている女性は今も多いだろう。沈黙を続けている被害者のことを忘れてはいけない」
リストは、希望者には実費で送付するという。問い合わせは大木さん電話090(5540)8344。
「訴えられない女性も多い」
沖縄で1996年から米兵らによる性犯罪のリストを作成している「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の共同代表、高里鈴代さんは、神奈川でのリストづくりについて「米軍基地があり続け、戦後も早い時期から(性犯罪の)問題が存在しただろう。過去から現在までの調査に取り組むことは大事だ」と評価する。
同会のリストは現在12版。