関東大震災直後、横浜でも横行した朝鮮人虐殺の歴史を胸に刻もうと市民団体が朗読劇に取り組んでいる。朝鮮人の証言から脚本を書き起こし、今に続く無念と恐怖を描く。7日、横浜市西区の久保山墓地で開く追悼会で披露し、慰霊碑を前に加害の歴史と向き合うことを誓う。
主人公は実在した人物で、東京・押上で虐殺を目撃、自らも足を刺されながら辛くも生き延びた朝鮮人、チョインスンさん。クライマックス、晩年に漏らした「やったことはやったと言わなきゃ駄目だ。隠そうとするからいけないんだ」というセリフに、今を生きる「私たち」の声が問いかける。
「虐殺はなぜ起きたのか。植民地支配の歴史を明らかにし、責任を取ることが課題です」
脚本を担当した山本すみ子さん(80)は「日本政府は謝罪も補償もしていない。今も続く問題だと伝えたかった」という。市民団体の代表として9月1日に合わせて追悼式を主催してきたが、加害の歴史から目を背ける社会の流れに危機感を募らせていた。
関東大震災では「朝鮮人が暴動を起こしている」という流言が飛び交い、信じた官憲や住民による虐殺が続発。背景には日本が植民地支配していた朝鮮人への蔑視と武力弾圧に基づく敵視があったとされる。
だが近年インターネットなどで「正当防衛だった」「虐殺はなかった」という妄言が流布。虐殺の史実を詳述した横浜市の中学生向け副読本が廃刊になり、小池百合子都知事が犠牲者への追悼文を3年連続で送るのをやめるなど、歴史否定の動きは拡大している。
「なかったことにすることで犠牲者を二重に殺している」と山本さん。やはり植民地支配に起因する旧日本軍慰安婦や徴用工の問題で「解決済み」と強弁する政府や、韓国への敵視をあおるメディアの現状も引き、「反省をやめれば過ちは繰り返される。在日コリアンが96年前と変わらぬ恐怖を抱いていることに思いをはせたい」と訴える。
追悼会は午前10時から、横浜市民が私費で建立した関東大震災殉難朝鮮人慰霊之碑の前で行われる。