1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. 教訓〈下〉安全問う組織罰 悲劇生まない社会を

事故遺族、専門家ら
教訓〈下〉安全問う組織罰 悲劇生まない社会を

社会 | 神奈川新聞 | 2017年9月17日(日) 11:05

当事者同士がつながり、社会に広く「組織罰」を訴えようと、大森さん(右から3人目)、松本さん(右)らが活発に意見を交わした会議=大阪府高槻市の関西大学
当事者同士がつながり、社会に広く「組織罰」を訴えようと、大森さん(右から3人目)、松本さん(右)らが活発に意見を交わした会議=大阪府高槻市の関西大学

 6月中旬、大阪府高槻市内の関西大学の一室。「組織罰を実現する会」のコアメンバーが集まる会議で、遺族、弁護士、専門家ら6人が机を囲む。

 「さまざまな事故遺族が問題を共通認識していける場がもっとあれば。つながりをどうつくるかが大事」。会副代表の松本邦夫さん(66)=兵庫県芦屋市=の声に力がこもる。山梨県の笹子トンネル事故で長女の玲さん=当時(28)=を奪われた。

 同大の安部誠治教授は「バスや鉄道など運輸業界にも、業界非難ではなく安全につなげるための法だと理解してもらえるよう説明する必要がある」と助言。当事者同士の結束を強め、法の必要性をより広く訴えていくためにどうすべきか。今後の活動方針などの意見を交わす。

 活動拠点は関西。今後は関東でも活動を広げたい、と動きだしている。4月には都内で初めてシンポジウムを開催し、笹子トンネル事故遺族の石川信一さん(68)=横須賀市=も思いを語った。「関東でももっと話し合える場が必要」との声に、メンバーはうなずき合った。

 会は2016年4月、尼崎JR脱線事故の遺族の一部や専門家らが立ち上げた。発足まで2カ月に1回のペースで計12回、勉強会を開催。刑法学者や福島第1原発事故の被害者などを招き、組織罰創設の必要性や実現性を考えてきた。

 JR脱線事故も笹子トンネル事故も共通点がある。

 役割が細分化された大企業が相手ゆえ、違反や責任がどこにあるかはっきりしない。現場から遠い企業幹部が事故を予見できたと認定するには壁が高く、責任を問うのは困難だ。

 原因を解明し、命を奪った責任の所在を明確にする。何より企業の自発的な安全対策への取り組みを促し、事故の再発、未然防止につなげたい。そのために、司法のあり方を見つめ直すべきではないのか-。異なる事故の遺族でも、共通の問題意識がある。

「罰さない形」


 「遺族の中でも考えはさまざま。『二度と事故を起こさない社会を』という思いは共通でも、安全を問う方法は多様にある」。そう訴え、組織罰の課題を指摘するのは、運輸事故に詳しい佐藤健宗弁護士(59)だ。

 「航空・鉄道事故後、警察の捜査と事故調査委員会の調査は同時に行われる。組織罰の導入で、原因を明らかにする調査よりも捜査の比重が高まる可能性がある」。さらに関係者が刑罰を恐れて口を閉ざし、「事実が水面下に潜ってしまうのでは」とも懸念する。

 佐藤弁護士は、信楽高原鉄道とJR西日本の列車が衝突し42人が死亡した事故(1991年)の遺族を支援してきた。鉄道事故の調査機関がなかった時代。事故原因を明らかにし、再発防止につなげたい。制度研究のため遺族と訪米するなど声を上げ続け、01年には鉄道分野の事故調査委員会設立につなげた。

 「小さな積み重ねが事故につながるし、小さな安全対策の積み重ねで事故は防げる」。それを示すには処罰や刑事責任を問う刑事司法より、高度な専門知識を有する調査機関が適しており、果たす役割も大きい-。そう指摘する。

 「罰しない」選択をした遺族もいる。

 JR福知山線脱線事故のある遺族は「責任追及はしない。原因の解明と再発防止策をともに話し合いたい」とJR西側に呼び掛けた。応じた副社長らとの対話は2009年から約4年半続き、成果は報告書にまとまった。

 報告書は「ヒューマンエラーは罰しない」「真相を明らかに」という遺族の姿勢のもと、事故に至るまでの過程が多角的に示された。

 たとえば、設置されていれば事故は防げたと指摘される自動列車停止装置(ATS)は当時、設置延期が重なっていた。同時期には、運転士がヒューマンエラーを起こすリスクが高まるとされた、快速増発などのダイヤ改正事業も決定していた。いずれも事故後、問題視されはしたが、報告書ではそれらを別々に決定していた企業構造の問題にまで切り込んだ。幹部個人が事故を予見できたかという観点で争われた裁判や、国の事故調査報告書では指摘されていなかった部分だ。

 また、事故当初は運転士個人のミスを強調していたJR西が、対話では問題点や反省なども多く述べた。

 佐藤弁護士は言う。「罰や司法に限ってみると視野が狭くなる。社会全体で役割分担し、事故とどう対峙(たいじ)していくのか。司法だけに頼らず、事故調査機関や遺族の取り組みなど、今あるものの重要性や成果、その充実を図ることにも目を向けるべき」

教訓受け止め


 組織罰導入の議論はまだ広がっていない。街頭などで地道に集めた署名は約5千筆にとどまる。それでも、会のメンバーの思いは強い。「さまざまな取り組みで補完し合い、より安全な社会をつくっていきたい。その一つの手段として、組織罰を実現させたい」。今後は法務省などに法整備を働き掛ける方針だ。

 「企業を巡る処罰は鉄道事故だけの話ではない」。会事務局を務め、脱線事故直後から遺族を支援してきた津久井進弁護士(48)が指摘する。

 例えば、福島第1原発事故。津波対策を怠り原発事故を防げなかったとして、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力の元会長ら幹部は「事故の予見は不可能だった」と主張している。繰り返されてきた多くの組織を巡る事故と同じ構図だ。また、企業を処罰対象とする法律には労働基準法がある。広告大手の電通で起きた過労自殺を巡っては今後、刑事司法の場で罪を問われることになる。「企業に対する罰のあり方を社会全体で考えたい」

 脱線事故後、JR西が始めた取り組みを評価する声もある。再発防止に向けて鉄道業界で初めて取り入れた、外部の評価機関に安全対策を見てもらう制度だ。ただ、事故で長女早織さん=当時(23)=を失った会代表の大森重美さん(69)=神戸市=らメンバーが求めるのは再発防止だけでなく未然防止。「JR西だけでなく、あらゆる企業に安全対策を取ってほしい」と願う。

 遺族、専門家がそれぞれの立場から社会へ投げ掛けるのは、悲劇を繰り返さないための教訓だ。もし大切な人の命が事故で奪われたらと想像し、考えてほしい-。教訓をどのように受け止め、生かしていくのか。私たちが問われている。

特別法で創設目指す



 「組織罰を実現する会」が目指すのは、刑法の業務上過失致死罪を企業など法人にも

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら

鉄道事故に関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング