厚木基地で実施されていた空母艦載機によるNLP(夜間離着陸訓練)を巡る騒音問題の膠着(こうちゃく)状態が続く中、地元から出てきたのが、1200キロ離れた小笠原諸島の硫黄島を訓練に活用する案だった。
構想は1970年代にも大和市が国に提案していたが、米軍に「遠すぎる」との理由で退けられていた経緯がある。
1987年6月の大和市議会定例会本会議で一般質問に立った市議、宇津木朋子は、NLP問題を取り上げ「(移転先に)硫黄島が再浮上するのではないか」と問いかけた。「すべての見通しが厳しくなる中、わらにもすがりたい思いがあった」と、宇津木は振り返る。
「参考にする」。宇津木の質問にこう答弁した市長の井上孝俊は、時を置かずに厚木基地を訪れ、司令官に硫黄島案の検討を要請する。12月の市議会で、井上は「米軍も検討中だという」と報告した。
英語は不得手。ゴルフもやらない。「米軍幹部と人間同士の関係一本で渡り合っていた」。井上の息子、貴雄の目には、父の姿はそう映っていた。
翌1988年2月、井上の意を受け…