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連載“猛雨”(1)「記録的」5年で最多 河川の増水、氾濫相次ぐ

社会 | 神奈川新聞 | 2017年9月1日(金) 02:00

8月1日の豪雨では横浜市内でも道路が冠水、河川に流れ込んだ =同市瀬谷区(読者提供)
8月1日の豪雨では横浜市内でも道路が冠水、河川に流れ込んだ =同市瀬谷区(読者提供)

 息苦しくなるような圧迫感、そして感じる恐怖。水しぶきで辺り一面が白っぽくなり、傘は全く役に立たない-。

 気象庁がそう定義する1時間に80ミリ以上の「猛烈な雨」。8月1日午後、東名高速上りの大井松田インターチェンジ付近を走っていた40代の男性が遭遇したのは、まさにそんな状況だった。ワイパーを最速にしても前方は見えず、隣の車線を走る大型車の足元から飛んできた水しぶきが大きな音を立ててフロントガラスにたたきつけられた。

 「このまま運転するのは危ない」と判断し、パーキングエリアへ。雨の強弱をスマートフォンで確認しながら車内でやり過ごし、雨が弱まるのを待った。

 「走り続けていたら、事故に遭っていたかもしれない」。感じたのは、命を奪いかねない雨の恐ろしさだった。

 気象庁の定義によれば、「道路が川のようになる」1時間30ミリ以上50ミリ未満の雨は「激しい雨」、「滝のように降る」とされる50ミリ以上80ミリ未満は「非常に激しい雨」。分類上、「猛烈」が最も強い雨だが、今夏はこの基準を大きく超える豪雨が各地を襲った。

「数年に1度」頻発


 数年に一度しか観測しないような短時間の大雨がアメダスやレーダーで捉えられたときに、おおむね20分以内に各地の気象台から発表される「記録的短時間大雨情報」。中小河川の洪水や浸水、土砂災害などを引き起こす恐れがあることを知らせるこの情報が、今年は全国で既に81回(8月29日現在)発表され、過去5年で最多となっている。

 発表基準の雨量は地域ごとに異なるが、1時間に80~120ミリ。今年は7月と8月だけで77回と全体の95%を占め、九州北部の豪雨で被害が集中した福岡県では、大雨特別警報が発表された7月5日だけで15回も発表された。その後も、秋田や群馬、愛知、岐阜、長崎、鹿児島の各県などで次々と発表され、河川の増水や氾濫が相次ぐ異常事態となっている。

 関東各地で大気の状態が不安定になった30日午後には、東京都練馬区付近と山北町付近で約100ミリの猛烈な雨が降ったとして相次いで記録的短時間大雨情報が出された。

 一方、県が設置した海老名市内の雨量計で1時間120ミリが観測された1日の豪雨では、発表されなかった。横浜地方気象台の担当者が課題を口にする。「発表基準(1時間100ミリ以上)を満たす雨量ではあったが、海老名の雨を捉えたのは県の雨量計だったため把握が遅れ、即時の解析に生かせなかった」

 どうすれば危険な雨をいち早く捉え、そのリスクを伝えられるのか。試行錯誤が続いている。

極端化 傾向あらわ



 1時間80ミリ以上の「猛烈な雨」が全国で相次ぎ、1時間100ミリを超えるような状況が捉えられた場合に発表される「記録的短時間大雨情報」が次々と出される今夏。

 気象庁の担当者は「記録的短時間大雨情報はこれまで、発表基準の雨量を見直したり、発表の迅速化に向けて雨量の解析頻度を高めたりと改善を図ってきた。その回数が多いことをもって、猛烈な雨が増えているとは言い切れない」と慎重な見方を示す。

 しかし、実際の雨量データが蓄積されている全国のアメダスからも、短時間の豪雨が増えていることは明らかだ。1時間50ミリ以上の「非常に激しい雨」を観測した回数をアメダス千地点当たりの平均値で比べると、2007~16年の10年間は1976~85年と比べ、3割も多い。

 神奈川に限ってみても、同じような傾向がうかがえる。横浜国大の筆保弘徳准教授(気象学)が横浜や相模原、三浦、平塚、山北など県内のアメダス10地点について調べたところ、この30年間で1時間10ミリ以上の強い雨が最大で1・5倍に増えていた。

「異常」が日常に


豪雨で冠水した道路の中を走る車=8月1日午後、横浜市内(読者提供)
豪雨で冠水した道路の中を走る車=8月1日午後、横浜市内(読者提供)


 歯止めのかからない地球温暖化、都市部に際立つヒートアイランド現象…。豪雨増加の背景はさまざまな角度から語られるが、「いずれにしても雨の降り方が変化し、降るときに激しくなる『極端化』が進んでいるのは間違いない」と筆保准教授は強調する。

 主要な研究テーマである台風についても、「異常が日常のようになってきた」との感慨を抱く。

 同時多発的な発生で、長さ数十キロ以上の強雨域「線状降水帯」を北関東に停滞させ、関東・東北豪雨をもたらした2015年、観測史上初めて東北の太平洋岸に上陸し、岩手や北海道に深刻な被害をもたらした16年と「異常な状況が2年続いた」。さらに今年も台風3号の通過後に九州北部で豪雨が発生し、太平洋上で迷走を続けた後に上陸した長寿の台風5号もあった。

 国内における水害の犠牲者数は、5千人を超える死者・行方不明者を出した1959年の伊勢湾台風を最後に、一つの台風で千人を超えることはなくなった。治水対策の進展とともに、伊勢湾台風を教訓とした災害対策基本法の制定などで避難や警戒情報の仕組みが整ってきたためだ。

 しかし近年は、東日本大震災のあった2011年の台風12号で98人、14年の広島市の土砂災害では77人、16年の台風10号で27人、そして40人以上の死者・行方不明者が出ている今年7月の九州北部の豪雨と、多数の犠牲者を伴う風水害が毎年のように起きている。11年と14年は風水害の死者数がそれぞれ100人を超えた。

 「これまでの対策だけでは、命を守れないということだ」。深刻な状況を踏まえ、筆保准教授は警鐘を鳴らす。「備えをさらに上積みする必要があるが、ハード整備などを当てにするだけでは解決しない。ここまで雨が激しいと、避難の徹底が不可欠。一人一人が判断し、行動するしかない」


 猛烈な雨が暮らしを、命を奪う。厳しい現実を突き付けたのは、7月の九州北部の豪雨ばかりではない。被害を防ぐ手だてはあるのか。現状と模索を神奈川と九州に見た。(本連載は計5回を予定しています)

■記録的短時間大雨情報の発表回数と主な豪雨災害■
 発表回数 主な豪雨災害
2013年 76回 伊豆大島の土砂災害
  14年 53回 広島市の土砂災害
  15年 38回 関東・東北豪雨
  16年 58回 台風10号(岩手、北海道など)
  17年 81回 九州北部の豪雨

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