川崎市が素案を示した差別根絶条例への思いを在日コリアン1世のハルモニ(おばあさん)たちがつづった。ヘイトスピーチを繰り返す者に刑事罰を科す画期的な案への賛意を届け、全会一致の成立を後押ししようと筆を執った。市民の意見を募るパブリックコメントに近く寄せられる。
10日、在日集住地区の川崎区桜本で開かれた識字学級「ウリマダン」。スタッフが「罰則条例は未来の子どもを守るために最低限必要なルール。12月議会で市議がそろって賛成できるよう、思いを示しましょう」と呼び掛けると、ハルモニたちは来し方を振り返りながら書き記していった。
〈私たちがすみよい条例を早くつくって、ヘイトスピーチをなくしてほしい〉〈だいさんせい。子やまごがさべつからまもられるようおねがいします〉
差別を受けた過去がよみがえり、涙を流しながらペンを握る姿もあった。
桜本のまちをヘイトデモが襲った2016年1月、徐(ソ)類順(ユスン)さん(92)は抗議するために痛む足で沿道に立ち続けた。「ようやくこのまちで安心して暮らせるようになったのに、いまさら『出て行け』なんて。子どもたちがかわいそうで、一人になっても頑張ろうと思った」。日本の朝鮮半島の植民地支配によって追われるように海を渡り、言葉も分からず苦労した日々がよぎったという。
あれから3年半。足の痛みはひどくなり、思うように歩くことはもうできない。「あのとき頑張りすぎたのが影響している」。でも、条例ができれば行政が施策としてヘイトを防いでくれる。スタッフの橋本みゆきさん(48)は「ハルモニが紡いだ思いに触れ、この条例がいかに大切かがよく分かった。市民や市議に伝わっていけば、おのずと全会一致の結果となるはずだ」と話した。
市民の意見は市のホームページから届けることができる。8月9日まで。