
5月末に発生した登戸児童殺傷事件や、その後に東京都練馬区で元農林水産事務次官が長男を刺殺したとされる事件では、引きこもりと犯罪に関連があるかのような報道が目立った。こうした“犯罪予備軍”視する偏見に直面した当事者や家族に動揺が広がる中、当事者から見た報道のあり方を考えるシンポジウム「ひきこもりとメディア~『容疑者はひきこもりでした』報道をめぐって」が30日、東京都文京区の筑波大東京キャンパスで開かれた。
主催は、登戸事件直後に引きこもりと事件を安易に結び付けることをやめるよう報道各社に求める声明を出した当事者団体「ひきこもりUX会議」と、当事者の声を発信し続けてきた「チームぼそっと」。約200人が参加した。
シンポジウムではまず、3人の当事者が一連の報道に接して感じたことを語った。
UX会議の林恭子代表理事が、事件後に「外に出られなくなった」「(容疑者と)同じと思われそう」と当事者から不安の声が多く上がり、家族会への相談は通常の20~40倍に上っていると説明。「誰も傷つかない報道は難しいと思うが、せめてそれを減らす、センセーショナルな報道の仕方をなるべくしないにはどうしたらいいのか」と問題を投げ掛けた。
チームぼそっとのぼそっと池井多代表は、以前、当事者が主体的に取り組む活動がテレビで紹介された際に「引きこもりがみじめで愚かなように演出されている」と感じ、抗議したエピソードを紹介。「家の奥で体育座りをしながらゲームばかりしている若い男」という一般的なイメージをひっくり返すような番組は「流せない」と言われ、報道が「間違ったイメージを温存して再生産している」と指摘した。
さらに「凶悪な事件が起こるたび、原因を自分の外に求めたくなる。そして古今東西、マイノリティーが罪をなすりつけられており、現在はそれが引きこもりになっている」と述べた。
「引きこもりは閉じこもっているとの誤解があるが、部屋から出ないのは3%で、半数以上は外出している」。こう説明したのは、ひきこもり新聞の木村ナオヒロ編集長。実際は外出するのもしんどくおとなしい人も多いという。
「川崎の事件は通り魔、練馬は家庭内暴力に悩んだ親の殺人容疑であり、引きこもりと結び付けることは、たとえば『テレビを持っている人が事件を起こした』と言っているような雑な報道」と木村さんは批判。また、家族などに依頼され、当事者を無理やり連れ出す「暴力的支援団体」が肯定的に報じられている現状にも疑問を投げ掛けた。
その後に行われた討論では、ジャーナリストの堀潤さんが「推定無罪の原則があるにもかかわらず、裁判が始まる前に『なぜこの人が犯罪をしたのか』という分析をしないでほしい。そのためにすごく乱暴なカテゴライズをして伝えているが、そうした安直な姿勢を脱することが大事だ」と話した。