「住民から喜んでもらえるだろう」「徹底的にやろう」。小田原市内のサービス付き高齢者向け住宅の庭で、男性6人が元気な声を上げた。
茂った雑草を前に、さっそく草取りを開始。黙々と作業に励む人、いすに座りながらの人、「根から取らなければだめだ」と仲間に指示する人、それぞれの個性、体調に応じて作業に当たった。
約1時間ほどで一帯はきれいに。「簡単だと思ったけど、結構大変だった」「すごいね、良くできた」などと、6人とも充実した表情だ。
6人は、同市内の認知症対応型通所介護事業所「しきさい館・R」(峯尾生恵管理者)の月曜日の利用者。65歳から87歳の認知症の男性たちだ。同事業所の社会参加型プログラムの一環で、峯尾さんら職員3人とともに草取りのボランティア活動を行った。若年性認知症のため、63歳の時から利用している元会社員大森哲郎さん(65)=仮名=も晴れやかな顔だ。
通所になじめない人向け
若年性認知症では、身体は元気で社会参加への意欲が強い人も多く、一般的なデイサービス(通所介護)にはなじみにくいという問題がある。プログラムに興味を持てない、利用者仲間の高齢者と話が合わないなどで利用を見送るケースも多い。
県西部担当の若年性認知症支援コーディネーター、田中香枝さんは「デイサービスなどに定期的に通うことで若年性認知症の病状が安定し、家族の負担軽減にもなります。本人がやりたい、頑張れると思える作業を提供してくれる事業所が多く出てきてほしい」と語る。特に県西部では、地域の広さに対し事業所が少ないため、若年性認知症の人に対応する事業所の紹介は大きな課題だ。
そうした中、県西部での受け皿の代表格が、しきさい館・Rだ。
峯尾さんは2013年、若年性認知症の人を支援しようと、本人・家族、地域の医療介護関係者らと「ODAWARA若年性認知症サポートプロジェクト」を立ち上げ、地域交流、居場所づくり、全国各地への団体旅行などの活動を続けてきた。「仕事があれば行くよ」、「手伝えることがあれば手伝うよ」。そうした若年性認知症の人の声を聞き、16年に同事業所を開設した。「あったらいいね」という事業所を具体化した。
意欲と記憶を引き出す
高齢者施設の庭の手入れ、花壇の整備、障害者施設と連携した製品づくり…。達成感のある社会参加プログラムは、若年性認知症の人に喜ばれたのはもちろん、社会参加意欲の強い高齢者、特に男性から強く歓迎され、10人が利用登録している。花壇の前には多くの住民が足を止め、プログラムは施設と住民をつなぐ役割も果たしている。
峯尾さんは「認知症であっても、本人の意欲や記憶を引き出すことで社会参加は可能です。社会参加により、地域での居場所やつながり、達成感などを得て、認知機能の低下を予防したい」と語る。
利用者の大森さんは、田中さんの紹介で、ODAWARA若年性認知症サポートプロジェクトに参加。そして、しきさい館・Rの利用者となった。大森さんは同事業所の作業風景を見るなり、「ここが良い」と即断したという。
県内介護保険事業所における若年性認知症の人の受け入れに関する調査結果 県は2018年9、10月、県内の通所系介護保険事業所3362事業所に若年性認知症の人の受け入れ状況を聞いた。回答は437事業所(回答率13・0%)しかなく、詳細な分析はできないが、「受け入れている、または検討中」はわずか53事業所(地域密着型通所介護24、認知症対応型通所介護11、その他18)にとどまった。受け入れ人数は通所中76人、検討中5人だった。県内の有病者推計数約2600人からすると、ほんの一部しか介護保険事業所を利用していない実態が浮き彫りになった。過去に受け入れた経験があるのは100事業所だった。
過去も現在も受け入れていない284事業所に今後の受け入れを聞いたところ、「受け入れできる」が139事業所、「分からない、または相談内容で判断」は130事業所、「受け入れできない」が15事業所。受け入れの課題として、プログラム内容、他の利用者との関係、職員のスキルなどの問題が指摘された。