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支え合いの現場から
若年性認知症を支える(5)疲弊する家族、地域走る専門職

社会 | 神奈川新聞 | 2019年6月26日(水) 07:00

 認知症には、アルツハイマー型、レビー小体型など、さまざまな種類があるが、中でもケアの難しさに直面するのが、前頭側頭葉変性症だ。人格の変化のほか、店の品物をその場で食べたり、そのまま持ち帰ったりするなど、社会的に不適切な行動をしてしまうこともあり、家族の苦悩は大きい。

 若年性認知症支援コーディネーターにとり、前頭側頭葉変性症などで激しいBPSD(行動・心理症状)に苦慮する本人家族を支えることは、大きな課題だ。

「閉じ込めておけ」

 神奈川県東部に住む元会社員、小林昭夫さん(54)=仮名=は2018年5月、前頭側頭葉変性症と診断された。

 そのまま会社を退職。症状は急速に進んだ。スポーツマンで身体は頑健。毎日、近所を歩き回るようになる。小学校に勝手に入り、トイレを使うこともあった。コミュニケーションも難しくなっていった。

 穏やかな人柄で、暴力をふるうようなことはない。だが、昭夫さんの変ぼうに、妻の亜紀さん(50)=仮名=と3人の子どもたちはショック状態となった。

 「急に仕事ができなくなり、日々変化していく父の姿を見るのは辛かった。なかなか現実を受け入れられず、精神的に参ってしまいました」。長女の清子さん(29)=仮名=が明かす。

 亜紀さんはその上、昭夫さんの行動を謝罪して回らなければならなかった。「学校の先生には認知症であること、子どもたちに危害を加えることはないことを理解してもらいました」


小林昭夫さん(仮名)はなぜか、近隣の家のドアブザーを押して回るようになった(写真は本文と関係ありません
小林昭夫さん(仮名)はなぜか、近隣の家のドアブザーを押して回るようになった(写真は本文と関係ありません

 しかし、今年に入り、昭夫さんの症状はさらに進行する。家を抜け出し、近隣の家のドアブザーを押して回るようにもなった。住民がドアを開けると、笑って立ち去る。

 謝罪に回る亜紀さんに、住民の反応はさまざまだった。「家に閉じ込めておけ」と怒鳴る人もいた。住民の言葉に亜紀さんはすくんでしまう。「本当に怖くて悲しかったです」

 地域ケア会議の開催など、医療介護関係者の支援も本格化した。県東部担当の若年性認知症支援コーディネーター、古屋富士子さんは、地元の認知症初期集中支援チーム、地域包括支援センターの各スタッフと、住民代表への説明会を開催した。

 昭夫さんの行動は前頭側頭葉変性症という認知症によるもの。本人に悪気はない。住民の不安にも対応する―。古屋さんは住民に説明しながら、「支援の輪が拡大しているので、昭夫さんを温かく見守ってほしい」とも訴え、理解を得た。昭夫さんのことを知った「認知症フレンドリーよこすか」役員の玉井秀直さんは、近隣への謝罪に同行もした。

 亜紀さんは「専門職の人から説明してもらって有り難かった。相談できる人がいるのは心強いです」と語る。

経済的苦境にも直面

 昭夫さんは現在、週5日のデイサービス、土日のショートステイなど介護保険サービスをフル活用。認知症支援団体の運動サークルにも参加し、症状の沈静化を図っている。

 「認知症はアルツハイマー型だけではなく、前頭側頭葉変性症によるものもあることを知ってほしい」と亜紀さん。清子さんも「人に迷惑を掛けてしまう事があるが、病気がそうさせてしまうことを皆さんに知ってもらいたい」と訴える。

 一家は経済的問題にも直面した。次女(22)と3人で住んでいるマンションのローン支払いは困難になった。退去後に向け、昭夫さんが入所できる施設探しも始めている。暮らしを支える支援も切実な課題だ。

 古屋さんは「障害年金や難病医療費助成制度などの利用も支援したい。本人、家族の話を十分に聞き、支援者、地域関係者とともに具体的な支援をしていきたい」と、コーディネーターの役割を語る。

 前頭側頭葉変性症 前頭葉、側頭葉を中心とする神経細胞の変性、脱落で起きる。細かい類型があるが、中心の行動障害型前頭側頭型認知症(ピック病など)では、衝動や感情を抑えられなくなる「脱抑制」により、店の品物を持ち帰るなどの社会的に不適切な行動も起こる。他に、共感の欠如、同じことを繰り返す「常同行動」などが特徴。病気の自覚はなく、初期には記憶は比較的保たれる。発症は40~50代が多く、その場合は若年性認知症となる。

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