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支え合いの現場から
若年性認知症を支える(4)関係者の輪、地域に職を生んだ

社会 | 神奈川新聞 | 2019年6月26日(水) 07:00

得意の料理に腕をふるう沖田広美さん=5月、横須賀市の「あんずの家」
得意の料理に腕をふるう沖田広美さん=5月、横須賀市の「あんずの家」

 認知症の人たちが暮らす横須賀市内のグループホーム「あんずの家」(田島利子ホーム長)で、昼食のちらしずしづくりが始まった。

 食材の買い出しから戻ってきた職員の沖田広美さん(60)=横須賀市=が、さっそくキッチンに入り、同僚職員と錦糸卵づくりなどに取り掛かった。調理の一部や盛り付けは入居者有志と一緒に行う。「みなさんが手伝ってくれて、良くできました」。沖田さんも仕上がりに満足げな様子だ。

 食事が終わると、沖田さんがテキパキとキッチンの後片付け。その間、同僚たちは入居者の歯磨き、服薬の支援などにあたる。「沖田さんがいないと仕事が回りません。頼りにしています」と、同僚たちが語る。

 沖田さんは、若年性認知症の当事者だ。昨年10月から週3日勤務の職員として働き始めた。記憶の障害などのため、最初の1カ月は電車通勤にサポートが必要だった。仕事の手順を忘れないため、チェック項目を記したリストバンドを付けたりもした。だが今は一人で通勤する。リストバンドも外している。

 一日の仕事の流れを書いた紙がキッチンに張ってあり、料理、掃除などの仕事を着々と進めている。沖田さんは充実した表情だ。「毎日、みなさんと楽しく過ごしています」

「この人なら、うちで」

 この沖田さんの就労には、若年性認知症支援コーディネーターの相談対応と、認知症の人を支えようとする横須賀の地域関係者のネットワーク、取り組みがあった。

 発端は、県東部担当の若年性認知症支援コーディネーター、古屋富士子さんとの面談だ。沖田さんが若年性認知症の診断を受けて約半年後となった昨年4月。当時はひどく落ち込み、自宅にこもりきりだった。だが、古屋さんに会うと、「夫はあれもできない、これもできなくなったと言いますが、自分にはまだできることがある。料理がしたい」と漏らした。沖田さんの願いを実現させたいと考えた古屋さんが頼りにしたのが、地域のネットワークだ。

 古屋さんは、沖田さん夫妻を若年性認知症の家族会「よこすか若年認知症の会タンポポ」に誘い出した。沖田さんの願いを古屋さんから聞いた代表の岸正晴さんは、地域の医療介護関係者らでつくる団体「認知症フレンドリーよこすか」の役員、ケアマネジャー玉井秀直さんに、沖田さん夫妻を引き合わせた。

 玉井さんにとっては業務外だったが、菓子作りを行っている「障害者地域活動支援センター第二はまゆう」の利用や、子ども食堂での調理ボランティアの仕事を、沖田さんに紹介した。玉井さんは「沖田さんには、もっと笑ってほしかった」と、当時を振り返る。

 そして、その後、玉井さんからの情報を通じて、あんずの家の田島さんが、子ども食堂で働く沖田さんの姿を知った。「この人ならうちのグループホームで料理の仕事をしてもらえると思いました」と田島さん。関係者のたすきがつながった。

 田島さんは「沖田さんはまだ介護保険サービスを利用する段階ではありません、普通に働ける場所があればと思いました」という。「働けるなら、働いてもらおうと、職員も法人幹部も理解してくれました」

支援のネットワーク

 あんずの家は開設当初から「諦めない介護、奪わない介護」で、認知症の人の可能性を生かすことを理念としている。ホームの理念が沖田さんの雇用にも直結した。職員は認知症ケアのプロ。沖田さんの認知症の進行状況などを把握し対応できることも大きい。

 沖田さんは現在、火・木・土曜日をあんずの家、月・水・金曜日を第二はまゆうで汗を流す。さらに、子ども食堂が開かれる際は調理ボランティアも行う。料理をしたいという願いを実現させた。

 若年性認知症支援コーディネーターにとって、若年性認知症の本人家族を支える地域ネットワークづくりやその活用は、重要な仕事の一つだ。沖田さんの事例はその典型となった。

 「横須賀には認知症の人を支える強いネットワークがあり、みなさんが積極的にいろいろな場所に顔を出し、力を尽くしてくれます」。横須賀の地域力に古屋さんが感嘆した。

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