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学校で知るLGBT 当事者講演や児童向け啓発本

社会 | 神奈川新聞 | 2017年8月20日(日) 09:55

SHIPが作成したリーフレット
SHIPが作成したリーフレット

 教育現場で性の多様性への理解を深めようとの動きが顕著だ。性的少数者(LGBTなど)の支援団体は学校での講演活動に取り組むだけでなく、中高生を対象にした啓発用のリーフレットを作成、出版業界では多様な性をテーマにした子ども向けの本の刊行が相次ぐ。ときに死を招く差別や偏見、誤解や無理解をなくすため、教育現場が果たす役割は大きく、関係者は期待を寄せている。

「周りから『ホモ、気持ち悪い』っていう言葉を聞くと、自分もそう言われるかもと不安で、言い出せなかった」「ゲイはいけないのか、自分が否定されている気がした」

 同性愛者の男子大学生らが思春期に感じてきた性や恋の悩み、思いを打ち明けていく。ことし7月中旬、横浜市金沢区の市立金沢高校であった3年生を対象にした人権学習会。参加した生徒約320人はその言葉に耳を傾けていた。

 講演を担ったのは、同性愛者やトランスジェンダーなど性的少数者の居場所を運営している同市神奈川区のNPO法人「SHIP」。学校での講演も活動の柱にしており、依頼は年々増えている。SHIP代表の星野慎二さんによると、2016年度は3年前に比べて3倍以上となる100回の講演を実施。17年度も前年度を上回るペースで推移しているという。

 SHIPでは、教育現場への働き掛けをさらに強めようと中高生向けのリーフレットを作った。システム開発などを手掛ける大塚商会(東京都千代田区)の助成を元手に、A4サイズの三つ折りで約2万2千部を発行。「ホモ」「オカマ」といった差別的発言に傷つく子どもたちがいることなどを伝えている。

 リーフレットは県教育委員会などを通じ、ことし4月までに県内の公私立の中学校、高校の計800校に配った。金沢高校での講演実施の呼び水になるなど効果が出始めている。

 教育現場へのアプローチは支援団体だけにとどまらない。出版業界では性的少数者を扱った小学生向けの本の刊行が目立つ。

 「たとえ手に取らなくとも、学校の図書館に置いてあるだけで、当事者の子どもたちには勇気を与えられると思う」。大月書店(東京都文京区)の編集部部長の岩下結さんはこう話す。

 同社などによると、昨年から学校の図書館などへの販売を目的とした書籍が出始め、同社もことし、小学校高学年以上をターゲットにした本を出版した。全10巻の米国の書籍を日本語に訳して全4巻(1冊2160円)にまとめ、「わたしらしく、LGBTQ」と題して主に学校の図書館に販売している。

 生物学的な性とは関係なく、自分で自分の性を認める「性自認」、自身が感情的、肉体的にどの性に引かれるかを表す「性的指向」など性にまつわる基礎的な用語を解説。同性愛者が抑圧された時代や、当たり前に得られる権利などを紹介し、「持って生まれた特性として受けとめ、ありのままにふるまっていい」などとも伝えている。

 学校側からの評判は上々で、増刷も予定。岩下さんは「学校の先生の中には知識が少ない人も多い。そうした先生にも読んでもらえたら」と願っている。


当事者の支えにもなってほしい、と感じている大月書店の岩下さんと、出版した全4巻の本=東京都文京区
当事者の支えにもなってほしい、と感じている大月書店の岩下さんと、出版した全4巻の本=東京都文京区

 性的少数者への配慮が教育現場でいかに必要かは、ことし公表された調査でも明らかになっている。

 宝塚大学看護学部(大阪市)の日高庸晴教授は、ライフネット生命保険(東京都千代田区)の委託で昨年7~10月に調査を実施。国内に住む約1万5千人の当事者から回答を得た。58・2%が小中高校時代にいじめに遭ったと答え、一方で、いじめの解決に先生が「役立った」との回答は13・6%にとどまった。

 学校で同性愛の知識を得られたかについては「一切習っていない」との答えが68・0%を占めた。若い世代ほどその割合が低くなった反面、10代の25・9%、20代の26・0%が「『異常』なものとして習った」「否定的な情報を得た」と上の世代よりも高い割合で回答。日高教授は、笑いを取るために性的少数者について差別的な発言をする教員もいると指摘した上で、「その繰り返しで生徒が命を落としたり、人生が大きく影響されたりする。現状から目を背けてしまえば、当事者の生きづらさは変わらない」と訴える。

 本人の了解を得ず、教員らが同級生らに暴露してしまう「アウティング」と言われる行為でもトラブルが起きている。SHIPが啓発用のリーフレットで「カミングアウトされたら」という項目を設け、「カミングアウトはとても勇気がいる行為」「本人の了解を得ないで、そのことを他の人に漏らさない」と配慮を求めたのも、当事者の子どもたちを守るためだ。

 教育現場での取り組みは緒に就いたばかり。それでも、SHIPの講演を聴いた金沢高校3年の女子生徒は「体の性、心の性、性的指向…。初めて知ったことも多かった。性の問題に敏感であるとともに一人一人の特性として考えることができたら」と話す。

 教員志望の多い同校では近い将来、生徒たちが人を導く立場になったことも考えて開催した。女子生徒もまた教壇に立つことを夢見ている一人という。

 ◆性の多様性 性的少数者は同性愛者のレズビアンとゲイ、両性愛者のバイセクシュアル、生まれつきの性別に違和感を持つトランスジェンダーの頭文字を取った「LGBT」と表記されることが多いが、自分の性を模索しているクエスチョニングなども含めて、性は多様なことが分かっている。2015年に電通が全国の約7万人を対象に実施した調査によると、20~59歳の約13人に1人が該当した。一方、文部科学省は同年4月、性的少数者の児童生徒へのきめ細かな対応を求めて全国の小中高校に対して通知を出し、翌16年には教職員向けのパンフレットも作成している。

 
 

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