
ごう音が闇を切り裂く。5月下旬、米海軍厚木基地(大和、綾瀬市)の米軍機が離着陸を繰り返した。日曜日を含め昼夜を問わず、日付をまたいで翌未明に及ぶ。「眠れない」「子どもが怖がっている」。両市には計397件の苦情が殺到した。
1963年の日米合同委員会の合意から半世紀余、飛行時間や曜日の規制が反故(ほご)にされ続ける。午後10時から午前6時までの飛行禁止は「緊要と認められる場合を除く」、日曜日の訓練飛行も「最小限にとどめる」とそれぞれ余地が残る。
5月20日から23日未明にかけての3夜連続の離着陸訓練では、米軍は飛行しないよう求めた両市に対し「やむを得ない事情があった」との主旨で説明するにとどまった。「都合の良い逃げ道がつくられている」。第5次厚木基地爆音訴訟の大波修二原告団長はいらだちを隠さない。
騒音の元凶となっている米空母艦載機は、来年5月ごろまでに米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)に移駐する予定だ。だが、滑走路を空母の甲板に見立てて行う離着陸訓練(FCLP)と、最高レベルの知識と技術が求められる機体整備で、厚木を継続利用することが懸念され、地元で騒音被害の軽減に疑念が生じる根拠となっている。
移駐後の騒音について、日米両政府は「軽減される」との見解を示す。米軍は、FCLPの訓練地・硫黄島へは岩国から「直接向かう」と厚木経由の可能性を否定。機体整備も「岩国で行われる」と説明する。
だが、大波団長は合意が守られていない実態を念頭に「信用できない。米軍が岩国と厚木という二つの基地を自由に使えるようになるだけだ」と懸念する。
5次訴訟の提訴は、前回裁判の終結からの期間がこれまでの訴訟に比べて短く、4次のおよそ半分の8カ月にとどまる。原告団は過去最多となる見通しで、第1陣は前回と同規模の6063人、申し込みはすでに約7500人に上る。矢継ぎ早の対応と数の力で国に圧力をかけたい考えで、大波団長は「厚木の基地機能継続への危機感が根底にある」と強調する。
弁護団長の福田護弁護士が特に懸念するのが、厚木の機能強化だ。背景には緊迫化する国際情勢がある。