諭すように、居並ぶ記者を見渡し語りかけていた。
「1回の憲法改正で完璧に100点になるとは考えられません。なんといっても改正を実現しなければならない。そのためには国民投票で過半の賛成を得なければならないという現実があります」
日本最大の右派団体「日本会議」が主導して設立した改憲のための団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(国民の会)。その共同代表である桜井よしこ氏が4月25日、記者会見しマイクを握っていた。
安倍晋三首相と自民党が、憲法9条2項を改正せず、「9条の2」を創設し「自衛隊」を憲法に明記する方法で「自衛隊を合憲化」する改正案を検討していることについて、その矛盾を問うと桜井氏はこう答えた。
「矛盾しているようにも思うかもしれません。しかし国民感情として9条2項をいますぐ改めることはできない」。そうした現状を踏まえ「自衛隊が違憲ではないということを担保するために」安倍改憲案に賛同すると言った。
論理の転進
2014年10月に日本会議が立ち上げた「国民の会」の協力・賛同団体には、保守系宗教団体や、自衛隊のOB組織である「隊友会」、日本青年会議所(JC)など幅広い団体が名を連ねている。
その共同代表には桜井氏のほか、日本会議会長の田久保忠衛氏、日本会議名誉会長の三好達氏が肩を並べる。事務局長には日本会議事務総長の椛島有三氏が就いている。
「憲法改正を実現する1000万人ネットワーク」
そう銘打って発足当初から神社の境内や駅前、集会やシンポジウムで「署名」を集め続けてきた。既に18年3月に1千万人を達成したという。
掲げてきた改憲項目は七つ。その三つ目にはこうある。
〈9条は、1項の平和主義は堅持し、2項では自衛隊の憲法上の規定を明記しましょう〉
14年10月時点では、日本会議と「国民の会」は、9条2項の改正によって自衛隊を合憲化するべきだと考えていたわけだ。
桜井氏も吐露する。
「論理的には一理ある」
この改憲方針が一変するのは2017年5月3日。読売新聞1面に安倍首相のインタビューが掲載され、そこで「9条1項2項を改正せず、自衛隊を明記する」という考えが示された。
日本会議も国民の会もこのころから明確に、論理的にこれまでとは食い違う改憲の主張を始める。
日本会議会長の田久保氏にこの方針転換について問うと、「個人的には(9条2項を改正すべきだと)そう思うところもある」と言い、しかしこう続けた。
「一国の首相が方針を示したのであるから、それを尊重するべきだと思う」