在日米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(大和、綾瀬市)の航空機騒音を巡る「厚木基地第4次爆音訴訟」で、最高裁が米軍機の飛行差し止め請求に対する上告を退けた。原告は高裁判決の住民敗訴部分を覆し、「次こそは踏み込んだ判断を」と期待していただけに、司法に対する失望は大きい。基地騒音被害の大半を占める米軍機の飛行差し止めは今回もかなわなかったが、次なる展開に望みをつなぎたい考えだ。
「政府が米国の言いなりでは、裁判所が米軍機を止めるのは難しいのだろう」。原告団の長老格、浜崎重信さん(96)は漏らした。
最高裁第1小法廷は15日、行政訴訟で自衛隊機の飛行差し止め請求に関わる住民、国の双方の上告受理申し立てを認める一方、住民側の米軍機に対する請求は審理から排除する決定を出した。17日までに住民側弁護団や原告団にも伝えられた。
浜崎さんの自宅は基地から約2・5キロの大和市内。転居した37歳のころは、小型のプロペラ機などが中心で、騒音はそこまで気にならなかったという。
航空機の大型・精鋭化とともに激化する騒音に我慢できなくなり、1960年に住民運動として騒音被害解消を求める。運動に手詰まりを感じたため、司法の場で被害を訴えようと仲間と起こしたのが、1次訴訟だった。以来、係争期間が重なった2次を除き、4次まで原告に名を連ねる。
この間、基地の周辺住民は200万人余りに膨らんだ。被害は深刻さを増し、「米軍機のほうが自衛隊機よりも騒音がうるさい。『撃ち落としてしまいたい』という人もいた」。
しかし、米軍機の飛行差し止め請求に対し、昨年7月の東京高裁判決は「日米安保条約、日米地位協定などに基づく厚木基地の使用について、国が制限することは想定されていない」と判断、「国に米軍機の運航を統括する権限はない」として退けた。今月15日の最高裁決定も高裁判決を不服とする住民側の上告を認めないもので、高裁の判断は維持される見通しだ。
浜崎さんはそこに、三権分立とかけ離れた司法の姿を見る。「米国との関係をこじつけて住民の被害を認めない。裁判所は逃げちゃっている」。日本政府と米国のための裁判所ではないかとの疑念が拭えない。
それでも、浜崎さんは「同じ基地を使っているのだから、自衛隊機の飛行が禁じられれば、米国による米軍機の運用にも影響を与えるのではないか」と前を向く。
そして、早ければ年内にも言い渡される最高裁判決を見据え、強調する。「司法の独立のためにも、最高裁は高裁が命じた自衛隊機の飛行差し止めを維持すべきだ」