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拓殖大学国際学部・徳永達己教授
地方創生の切り札はLBT

社会 | 神奈川新聞 | 2017年7月24日(月) 09:25

長野県下條村で、道路の補修作業に取り組む住民 (徳永教授提供)
長野県下條村で、道路の補修作業に取り組む住民 (徳永教授提供)

 政府が重要政策の一つに掲げる「地方創生」。若い世代の定住や雇用の創出を図ろうとさまざまな取り組みが展開されているが、地方が劇的に生まれ変わる状況には至っていない。こうした中、拓殖大学国際学部の徳永達己教授(56)=横浜市在住=は、地方創生の切り札はLBT(Labour Based Technology)だと主張する。直訳すると「技術に基づいた仕事」。LBTとは何か。徳永教授に聞いた。


 人口減、若い世代の就業機会の減少、コミュニティー意識の希薄化、空き家や空き店舗の増加、インフラの劣化…。地方が抱える課題を列挙した上で、徳永教授は指摘する。「地方創生は待ったなしの最終局面を迎えている。(取り組み次第で)生き残る街と消滅する街とに分かれると思う」

 

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 専門は都市交通、インフラ開発など。アフリカなど途上国の開発プロジェクトに数多く携わってきた経験から、地方と途上国では直面し、抱える課題が類似していると実感している。

 「途上国では人口が増えており、(日本とは事情が)違うと思われるかもしれないが、教育を十分に受けた人が少なく、加えて、資金不足という問題も抱えている。これこそ、働く世代の減少や税収不足に悩む地方と構造は同じだ」

 さらに続ける。難しい局面だからこそ幾多の困難を乗り越え、国づくりに励んできたアフリカから日本が学ぶべきことは多い、と。

 LBTとは、住民が参加して道路やスラム開発を行うまちづくり工法を指す。途上国のインフラ整備の手法として1970年代ごろから導入されている。ブルドーザーなどの大型機械を使った公共工事とは対照的に、簡易な機材を使った人力主体の工事で、村の内部や、集落間を結ぶコミュニティー道路などに適用されることが多いという。

 「平たく言うと、住民が自らのインフラを自分たちで直すこと」。徳永教授は人力という点よりも、「住民主体」に主眼を置く。

 LBTを進めるに当たり参加する住民が組織をつくり、役割分担をしたり、合意形成を図ったりすることが欠かせない。住民には賃金が支払われ、雇用促進のほか、地域コミュニティーの形成といった効果があるという。


「LBTこそが地方創生の切り札」と話す徳永教授=東京都文京区の拓殖大学文京キャンパス
「LBTこそが地方創生の切り札」と話す徳永教授=東京都文京区の拓殖大学文京キャンパス


 プラスの側面は、ほかにもある。「自分たちのインフラをつくるとなると、手を抜かなくなり、品質が担保される。住民はインフラの受益者であると同時に、品質管理も行うことになる」

 

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 徳永教授によると、日本でもLBTに似た事業が行われている地域がある。

 その一つが、長野県下條村だ。人口約3800人(7月1日現在)の中山間地でありながら、行財政改革や少子化対策を推し進め、若い世代の割合や子どもの出生率が上昇したとして注目を集めている。「奇跡の村」との呼び名もある。

 村が92年に始めたのが、建設資材支給事業。建設事業費の削減を狙い、200万円以下の小規模な工事は、住民で進めてもらうと提案した。対象は受益者3人以上の村道・農道の舗装、側溝敷設、水路の整備など。地区の代表者が申請し、村が認めれば生コンクリート、砕石といった資材を支給する。住民はボランティアでの参加となる。

 当初、住民は困惑したが、徐々に広がっていった。村には、道の補修や入会地の除草・清掃などの作業を住民が無償で行う「道役」「お役」といった風習が根付いていたことも、定着の背景にあったようだ。

 実際に、村のある地区の工事に参加した徳永教授。神社脇参道の舗装や除草が年1回の恒例行事となっているといい、当日は11人が参加、作業は2~3時間だった。「それほど重労働ではなく、みんな楽しく作業していた。お祭りのような感覚で、作業後の飲み会の方が長いほど」と笑う。

 一つの目標に向かってともに汗を流すことで住民の結束が深まり、共同体としての意識を自覚し合うことにつながる。村に移住してきた若い世代の参加もあり、地域に溶け込むきっかけにもなっている。

 同事業の類似例は、徳永教授が把握するだけでも全国に25あり、神奈川県内では秦野市で展開されているという。

 

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 「実はわれわれの身の回りにも、LBTに似た事例は数多くある」。町内会や自治会、PTA活動、NPO・NGOのほか、市民らが一定区画の道路の清掃や花の管理を行う「アダプト・プログラム」などが、相当する。

 重要なのは住民発意である点だ。「限られた財源の中、柔軟な発想によって地域力を発揮し、民間、住民が主役のまちづくりを展開する。これが、地方創生の鍵ではないか」

 その上でまず提言するのが、地域発「まちづくり塾」を通じたLBTの普及。まちづくりのノウハウを持つ塾(団体)をつくり、下條村のような取り組みを、他の地域にも展開させるとのアイデアだ。

 もう一つは、住民主導のまちづくりマスタープラン(基本計画)の作成。住民が、行政の策定するマスタープランを見直し、自分たちの手で担えるインフラ整備を逆提案する、というものだ。市民が提案するハード整備に対し、横浜市が最大500万円を助成する「ヨコハマ市民まち普請事業」は、好事例だと徳永教授は言う。また、インフラ整備を公募型とすれば、施設のネーミングライツ(命名権)のように企業が名乗り出て資金が調達できる可能性もある、とも。

 「地方創生をダイナミックに動かすには、相当なエネルギーと大胆な仕組み(制度)、仕掛け(手段)が重要だ」

 地方創生の課題である人材不足に関しては、学生を活用できないかと考えている。大学ではまちづくり活動に関心を持つ学生は多いと感じており、こうした学生を組織化し、地方へ送り込めば、新たな風が吹き込まれると確信している。

 とくなが・たつみ 拓殖大学卒、東京海洋大学大学院修了。青年海外協力隊、民間企業などを経て現職。著書「地方創生の切り札LBT アフリカから学ぶまちづくり工法」は大空出版から1620円。問い合わせは同社電話03(3221)0977。

 
 

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