
横浜生まれのダンス「ハマチャチャ」の創始者、小山成光(しげみつ)さん=享年66=が横浜・本牧通りに開いた会員制のバー「ラジョイ・アンド・レッドローズ」が、31日に営業を終える。小山さんの美学が詰まり、神奈川ゆかりの著名人にも愛された老舗は惜しまれつつ45年の歴史に幕を下ろす。
店が誕生したのは1974年9月。同時期に開業した「リンディ」とともにディスコブームをけん引した。2016年1月に小山さんが亡くなった後は、知人らが店を守ってきたが、築65年目になる建物の老朽化に伴い、営業を続けることが難しいと判断した。
82年に返還されるまで米軍の接収地だった本牧では戦後、米国の最先端の音楽が響いていた。10代でダンスの魅力にはまった小山さんは元町のディスコに出入りし、米兵の動きを見よう見まねで覚えた。

8拍子のステップを基本に、パートナーとシンクロしながら500種以上の動きで作るダンスを仲間と考案。東京・横田基地にあったテーラー「K.ブラザーズ」でオーダーしたスーツ、「ボルサリーノ」の中折れ帽できめた長身の小山さんがダイナミックに動く様子に、多くの若者が魅了された。スライドした足を高く上げて手でタッチするなど、その独特な動きは東京からも見物客が訪れるほどの人気に。「ハマチャチャ」の愛称で親しまれた。
「かっこ良く。センスが良くなくちゃダメ」
24歳になると、元は店舗兼住宅だった建物を改装し、夢だった自分の“城”を築いた。真っ白な扉には小山さんが好きなバラをデザイン。会員カードを差し込むとスッと上がり、姿を現す“秘密基地”には俳優の松田優作さんや歌手の松任谷由実さんも出入りし、バカラのグラスを傾けた。

ガラスモザイクのイス、春画や扇子など和洋折衷のインテリアは芸能関係者の目を引き、「撮影で使わせてほしい」と何度も誘いを受けた。
「最終回ならいいよ」と首を縦に振ったのが、横浜が舞台の人気ドラマ「もっとあぶない刑事」だった。本人役で出演した小山さんは主演の柴田恭兵さんに負けない存在感を放つ。
妻の美津子さん(70)は「パパ(小山さん)が『世界一』と自慢していた店。閉めるのはさみしい」と名残惜しげ。「小さくして閉まっておけるなら、保存しておきたい」と話している。
営業は30、31の両日で午後8時から。問い合わせは電話045(623)9893。
