
在日米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(大和、綾瀬市)の航空機騒音を巡る「厚木基地第4次爆音訴訟」で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)が、米軍機の飛行差し止めを退けた東京高裁判決を不服とする住民側の上告を退けたことが16日、分かった。騒音被害の大半を占める米軍機の飛行差し止めは、1次訴訟から40年にわたる住民側の悲願だったが、今回もかなわなかった。決定は15日付。
上告棄却と上告受理申し立てを退ける決定が16日、最高裁から住民側弁護団に送達された。最高裁は15日、一部の上告受理申し立てを認めた上で住民側と国側の双方の主張を聞く弁論を10月31日に開くと弁護団に伝えていたが、棄却内容は明らかになっていなかった。
弁護団によると、行政訴訟と民事訴訟で自衛隊機・米軍機の飛行差し止めを求めた住民側の上告に対し、最高裁は行政訴訟での自衛隊機の飛行差し止めに関わる一部の論点についてのみ上告を受理。一方、民事訴訟の飛行差し止めは自衛隊機、米軍機ともに上告を退け、行政訴訟の米軍機に関わる上告も退けた。いずれも理由は示されていない。
4次訴訟では横浜地裁と東京高裁が、行政訴訟において時間などを制限する形で自衛隊機の飛行差し止めを全国で初めて認めた。しかし、米軍機に対する請求は一、二審とも、「国の支配が及ばない」(民事訴訟)、「訴訟の対象となる行政処分がない」(行政訴訟)として退けていた。
原告団長の金子豊貴男相模原市議(66)は「最高裁が米軍機の飛行差し止めの是非を判断しないのは非常に残念だが、より広く被害が認定されるよう、できる限り主張を尽くす」とコメント。弁護団副団長の福田護弁護士は「どうやって米軍機の差し止めを求めればいいのか、考え直さないといけない」と話した。
【解説】被害解消へ壁一層高く
騒音被害の大半を占める米軍機に対する飛行差し止め請求を巡り、最高裁が行政訴訟、民事訴訟ともに上告を棄却したことで、住民側が司法に求めてきた救済の道は一層遠のいた。米軍機による被害を法廷で主張する機会すら得られない結果は、国内法に縛られない日米安保条約の壁の高さを改めて突き付けた格好だ。
厚木基地第4次爆音訴訟で原告の住民は、全国の基地騒音訴訟で初めて、行政訴訟でも飛行差し止めを求めた。民事訴訟では1次訴訟の最高裁判決(1993年)で棄却されており、「2枚目のカード」として切ったのが公権力行使の適否を争う行政訴訟だった。
この手法は自衛隊機で奏功し、飛行差し止め命令を初めて勝ち取った。だが米軍機では一、二審ともに却下され、新たなカードに対する最高裁の判断に期待を寄せていた。それだけに、住民側の落胆は大きい。
基地周辺の騒音被害を巡っては、一審の地裁判決も「米軍機の飛行差し止めが認められなければ、実際には騒音被害が軽減されるとは考えがたい」と認めている。今後は別の法的構成での差し止め請求も想定されるが、今回の棄却決定により、被害の根源の解消に向けたハードルが一層高くなったことは間違いない。
基地騒音訴訟は、国の防衛施策という高度の公益・公共性と、周辺の住環境をどう維持するかがせめぎ合う難しさがある。とはいえ、自衛隊機は訴訟の対象としながら、米軍機については「門前払い」という矛盾は解消されないままだ。司法の向き合い方が問われている。