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記者の視点=運動部・清水嘉寛(平成元年生まれ)
【平成に生まれて】(7)部活動と体罰(上)

社会 | 神奈川新聞 | 2019年3月21日(木) 10:26

練習試合に臨むBBCスカイホークスの選手たち。体罰などを理由に野球部を退部した高校生世代の若者が汗を流す=綾瀬市
練習試合に臨むBBCスカイホークスの選手たち。体罰などを理由に野球部を退部した高校生世代の若者が汗を流す=綾瀬市

 部活動を舞台にした体罰が後を絶たない。なぜ指導者による暴力行為はなくならないのか。部員と指導者の求められる関係、部活動としてあるべき姿を野球の現場から考えた。

 寒風吹きすさぶグラウンド。17歳の元高校球児、飯田良二さん=仮名=は冬場の練習に打ち込もうとする度、1年前の恐怖心と痛みが去来する。

 「痛めつけられた時の感覚、感情はきっと一生忘れない」

 真冬の練習中だった。部員全員で輪になってバットを振り込んでいると、ゴツンと背中に衝撃を受けた。足元に硬球が転がる。振り返ると鬼の形相の監督がいた。

 予兆は数カ月前からあった。甲子園への切符を懸けた夏の静岡大会直前。練習の緊張感が高まる中、監督からの「当たり」が強くなった。練習から外され、罵声を浴びせられた。理由が分からない。反応に戸惑うと、監督がさらにいら立った。「何か言ってみろよ」と拳が飛んだ。

 甲子園出場の夢を追い、大好きな野球に浸るはずだったグラウンドで、指導者から屈辱と苦痛を味わわされた。「なぜ殴られたか。いくら考えても分からない」。やり切れぬ思いを反すうさせた。2カ月後、静岡県内の強豪私学で1年時から背番号を授かっていた有望株は在籍わずか1年で退部、そして退学した。

 飯田さんがいま汗を流すグラウンドでは、1度は野球を諦めた選手たちが笑顔で白球を追っている。大和スタジアム(大和市)を拠点とする硬式野球クラブ「BBCスカイホークス」は、部活動の環境などになじめず退学した選手たちを全国から受け入れている。

 高校生世代を中心に約30人が大学進学や独立リーグ入りなどさらなる高みを目指し、勉学と練習に再び励む。体罰の経験を語ってもらおうとチームを訪ねると、次々と名乗りを上げてくれた。「学校名を出してください」と申し出る選手もいたほどだった。

 遠征先の練習試合で大敗を喫したある投手はベンチで正座を強要させられ、硬球を投げつけられた。監督から腹いせのように背負い投げをされ、チームのバスに乗ろうとした際、運転手のコーチに蹴り飛ばされもした。

 指導者から上級生に「やれ」という指示が飛び、下級生への暴力を強要された選手もいた。絶対的な立場からの部員に対する暴力行為の扇動は、日大アメリカンフットボール部の悪質な反則タックル問題を彷彿(ほうふつ)させる。

絶対的存在の支配

 「体罰はあり」と考える選手もいる。「体罰のおかげでエラーをしない自信が付いた」。千葉県内の公立高校に通った佐藤裕也さん(17)=仮名=は言い切る。

 体罰を受け入れる価値観が染みついたのは中学時代だった。野球部顧問の姿勢は「うまくなるためには恐怖心が必要」と体罰を肯定するものだった。ミスをすれば怒鳴られ、平手打ちを食らう。それが嫌だから、怒られないための方法を考えるようになる。そんな理屈だった。

 それでも、進学した高校では、悪(あ)しき伝統が受け継がれた野球部を生き残れなかった。3年生は「神様」、2年生は「人間」、1年生は「ごみ」。理不尽な序列だったが、当時は「チームの統率力を高めるため」「もっと強くなるため」と飲み込んだ。そして、「事件」は起きた。

 ある3年生が1年生部員に暴力をふるったことが発覚した。1年生にとって3年生は「神様」。その1年生は監督に「誰にやられたんだ」と問われ、2年生だった佐藤さんの名前を告げた。ぬれぎぬだったが、監督は聞く耳を持たない。呼び出された会議室で頭をパイプ椅子で殴打され、出血した頭部をつかまれ、壁に押しつけられた。その後も暴力は続いた。2年生の夏に野球部を退部し、退学した。

 野球だけではない。学業の遮断という人生をも狂わせる経験を経てもなお、深くこびりついた価値観は変わらない。「もし過去に戻っても同じ中学で野球部に入りたい。体罰がなくても弱小校には行きたくない。高校はどうせ体罰があるのなら、もっと強いチームでプレーしたい」

 恐怖心と勝利至上主義に支配された部活動には、スポーツの原点である「楽しむ」という要素は一切ない。指導者の立場が絶対であればあるほど部員の心は屈折し、その呪縛から逃れられない。

告発阻む見えぬ壁

 富山県内の強豪校に通った山田和宏さん(18)=仮名=は指導者による体罰を周囲に明かせなかった過去を悔いる。「(部員間による)部内暴力まで一緒にバレれば、場合によっては出場停止を食らってしまう」「大会には出場したいから(体罰は)我慢しろ」「外部には漏らすな」。先輩から強く口止めされた。

 高校野球の不祥事は日本学生野球協会に報告され、審査室会議を通して処分が決まる。部員間の暴力は謹慎や対外試合の禁止が通例だ。2013年3月には大阪府の伝統校・PL学園が部内暴力で春季府大会出場を辞退。府高校野球連盟の審議を経て6カ月間の対外試合禁止処分が下され、夏の大阪大会も出場を絶たれた。

 野球人口の減少が指摘されて久しいが、体罰が一因と言えはしないか。

忘れられた「原点」

 テレビで見た甲子園の舞台に憧れたから、白球を力いっぱい投げたいから、バットを振り抜くことが楽しいから-。BBCスカイホークスに所属する選手たちの純粋な思いは絶対的存在の指導者による暴力にゆがめられ、1度はグラウンドを離れた。それでもなお彼らが野球を続けたいと切望し、全国から大和スタジアムに集ったのは「野球が好き」という思いの強さの裏返しだ。

 「ぼくたちは子どもじゃない」「言葉だけで理解できるのに、なぜ暴力を振るうのか」。被害を受けた選手たちの語り口は理路整然とし、年齢以上にどこか大人びていた。

 「逃げることなく野球と、そして自らの人生と向き合い、若くして大きな決断を下したからこそ」とチーム関係者は言う。もちろんそうだろう。同時に思う。彼らが自ら言うように「言葉」で通じたはずだ、と。何よりも野球が好きな彼らだから。

 山田さんは野球を始めた幼少期を思い返しながら、語った。「このままじゃ、みんな野球を嫌いになってしまう。高校野球の将来のためにも、古い指導方法は変えなきゃいけない」

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