平成の正体 第2部 分断と格差の経済史(5)
「分配」へ変革の兆し 安倍経済の罪業
社会 | 神奈川新聞 | 2019年3月18日(月) 11:06
【時代の正体取材班=田崎 基】働く人の多くが将来に不安を抱え、貯蓄もできず、生活は厳しくなり、だから消費が伸びない。この平成期の長期景気低迷から脱しようと2013年から本格始動したのが「アベノミクス」であった。
「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という「三本の矢」だが、開始から丸6年を経てもなお当初の目標「物価上昇年率2%」を達成できずにいる。6度も先送りを繰り返し、もはや「いつまでに」と明言することさえやめ、7年目に突入した。
平成期を締めくくる経済政策「アベノミクス」の果実とは一体どこにあるのか。
虚構導く経済
「偽り経済政策-格差と停滞のアベノミクス」(岩波新書)の著者で理論経済学者の服部茂幸・同志社大教授は指摘する。
「日銀による異次元金融緩和は急速な円安を生み、しかし意図した輸出拡大はなく、逆に円安にもかかわらず輸入が増大した。結果の円安インフレとなり、実質賃金と家計の実質所得を削り取った」
消費は停滞し、アベノミクスによる「円安による景気回復のルート」は途絶えた、と分析する。
ただ、円安は特に輸出系企業に大きな利益をもたらした。この為替差益に加え、2015~16年は世界景気が好調だったことも追い風に、大企業の業績は軒並み過去最高益を更新した。
だが見込んだ景気回復の循環はあっけなく裏切られる。大企業の多くはアベノミクスで得た利益を賃上げや設備投資に回さず、内部留保として蓄えたのだ。
売上高2千億円規模の県内企業幹部は言う。
「いつ景気後退局面に入るか分からない。バブル崩壊とリーマンを経験した私たちはとても慎重になっている。いま人件費を増やすわけにはいかない」
アベノミクスが引き起こしたこの経済現象は景気後退とインフレが同時進行し、人々の生活が苦しくなる「スタグフレーション」であったことが鮮明に浮かび上がる。
異次元の実相
ではアベノミクスの核心である「異次元の金融緩和」で日銀はこの間、何をしてきたのか。
銀行が国から買った国債を大量に購入し通貨を大量供給してきた。膨大な量のお札を新たに印刷したと言ってもいい。この通貨の総量「マネタリーベース」は、13年3月の138兆円と比較しこの5年間で3・5倍にまで急拡大し、18年12月時点で502兆円を超えた。
世界的にこうした異常な金融緩和を続けている国は日本のほかにない。